涙よ届け

19/21
前へ
/21ページ
次へ
日々は過ぎ、ひとつだけ変わったことがある。 疎遠だった父側の家族へと、僕は何度も会いにいった。 そして説得して和解できたのだ。 そこから生活が大きく変わっていった。 大学を卒業後、僕は父の実家へと引っ越して祖父母と暮らし始めた。 父も引っ越して、独り暮らしになった。 勤務する工場に自転車通勤できるようになっている。 「おじいちゃん、おばあちゃん、行ってきまーす!」 そして表の世界では、僕は就職していない。 けれど平日の朝になると出かけるので、近所には就職してると 思い込まれている。 僕は駅前の商店街のタバコ屋へと向かう。 「おはよう、正美ちゃん」 浅葱さんがタバコ屋の店の中で畳の上で座っている。 「おはよう浅葱さん、今日もお世話になります」 僕は浅葱さんの部屋に置いたままのギターケースを背負って 奥の部屋へと向かう。 裏の世界へと続く空間へと。 祖父母の自宅でギターを弾くと騒音問題になってしまう。 だからギターはタバコ屋に置いてもらっているのだ。 『仕事』を終えてからギターの練習を欠かさない。 帰宅は、その日の仕事内容によって違ってくる。 めまぐるしく忙しく、けれど充実した日々だ。 ちなみにまだ独身。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加