涙よ届け

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薄暗く、あちらこちらに明かりの灯る道の端に座る。 すると誰かしらが声をかけてくる。 今日は幼い女の子だった。 「お母さんと喧嘩しちゃった。うまく仲直りできない......」 と、黄色いワンピースの女の子がクマのぬいぐるみを抱きしめる。 「そっか。なら、思ってることを正直に言ってみて。 それを歌にして、お母さんの前で歌ってあげるから」 僕はギターのチューニングを始めた。 「このギターはね、僕のお母さんが買ってくれたんだ。 もう死んじゃったから、気持ちは伝えられないけどね」 「お兄ちゃん、かわいそう......」 女の子が泣き出してしまった。 左右の三つ編みを揺らして肩を震わせて......。 「ごめん、ごめん、悲しませちゃった? 大丈夫なんだよ、このギターがあるから、お母さんと一緒だよ。 ねえ、泣かないで。悲しむより、お母さんと笑おうよ」 女の子がうなづいた。 この子の涙の管理の小瓶には......。 『ギター弾きのお兄さんが、かわいそうで泣いた』なんて ラベルに貼られて小瓶に入るのだろうか。 笑った日を管理している箱にも、この日が入って欲しいものだ。
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