涙よ届け

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まとわりつくような湿気と蒸し暑さだった。 駅前の小さな商店街は、夜になってシャッターが閉まっている店も あるけれど、飲み屋も多いので賑わっている。 そして蕎麦屋の隣りにあるのがタバコ屋。 昭和の漫画やアニメに出るような、おばあちゃんが中で畳の上に 座っていて、外から銘柄を言うとガラスケースから出してくれる。 「あら正美ちゃん、こんな時間にどうしたの?」 タバコ屋のおばあちゃん、浅葱(あさぎ)さんが微笑みかけてきた。 幼少時から父の散歩がてらにタバコ屋に連れられてきた。 昔から変わらないおばあちゃんで、母の葬儀にも参列してくれた。 艶のあるグレーの髪を後ろで結い上げて、いつも浅葱色の着物を 着ている。 とはいえ着物の柄が変わるので、様々な浅葱色の着物を着回して いるのだと、次第に気づいてきた。 「よくわからないけど、タバコじゃない『おつかい』だってさ」 そうして僕は父から渡された封筒を差し出した。 「あらあら、もしかして買いにくるかしら?とは思ってたわ」 「は?」 「正美ちゃん、中へどうぞ」 畳の上に座っていた浅葱さんが立ち上がり、店の横にあるドアを 開けてきた。 「タバコ以外は店の奥にあるのよ。さあ、どうぞ」 「は、はあ」 なにがなんだかよくわからないまま、僕は後についた
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