涙よ届け

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「な、なんなの?ここは......どういうことなの?」 まるで世界的に人気な洋画の世界に来たみたいだ。 タバコ屋の裏がこんなにもファンタジックだなんて。 「あたしの裏の仕事は『涙売り』なんだよ」 先程と変わらぬ素振りで浅葱さんが言った。 「なみだ、うり......?」 「そう、人の思い出の中で流した涙を溜め込んでおく。 その思い出が欲しくなったら、買いに来る人がいる。 正美ちゃんから受け取った封筒、正志くんからの封筒だけどね、 特別な通貨とメモが入っていたよ。涙は、どれでもいいって」 浅葱さんが不思議な模様の細長い紙を数枚みせてきた。 「これは裏市(うらいち)でしか入手できない紙幣。 涙だけじゃない、他にも色々とね、裏の世界で売られる品を 買うときに使うものなのよ。 こういうのはね、ちょっとしたコネが無いと手に入らないし、 取引もできない。正志くんは家系的につながっていたんだね」 「無茶苦茶すぎる世界観だ......。 あっ、でも、父方のほうは結婚に反対したままで、いまも絶縁で」 「そうね、メモにも書いてあるわ。 祖父に貰った最後の3枚だって。 これで涙がひとつぶん、ギリギリで買えるって」 「涙を......」 「そう、正志くんじゃなくて、美幸さんの涙を」 僕は改めて目の前の小瓶たちを見た。 どれも小さいけれど、少し大きめもあれば、小さすぎるのもあった。
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