涙よ届け

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浅葱さんが振袖をそっと抑えながら腕を伸ばした。 「悲しみの涙、怒りの涙、喜びの涙、悔しさの涙......。 たくさんあるのよ。 正美ちゃん、お父さんは知って欲しかったのね。 美幸さんとの、涙の歴史というものを、あなたに」 「急に言われても、急に、見せられても......」 「そうよね、正美ちゃん、これ、封筒にあったわ」 浅葱さんが小さなメモ用紙を差し出してきた。 そこには、英数字が書き込まれていた。 「どう考えてもパスワードよね?どうぞ」 スッと浅葱さんが着物の振袖を舞わすと1箇所に明かりが点いた。 そこには、小さなテーブルの上にデスクトップ型のパソコンが 置いてあり、座る椅子もあった。 「魔法みたいだ」 ひとつひとつに僕は驚く。 「パソコンは回線をつないであって電気代を払ってるし、 機材を運んでくれたのは契約したプロバイダーよ」 浅葱さんが現実的なことを言ってきた。 「とはいえ電気代をよこせとは言わないわ、ゆっくりしていって。 いま、お茶をいれるわね」 そこまで言われたら帰れない。 僕は椅子に座り、パソコンを起動させた。 画面にはパスワードの入力画面が出た。 こんなに容易くパスワード画面が出ること自体、やはり魔法みたいだ。
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