故人を蘇らせる人

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故人を蘇らせる人

 子供たちは、死んだ母と再会したかった。    ただ、それだけ。    AIの発展は、夢を叶えるにぴったりだった。   「では、お母様の書いた文章や、お母様の映っているビデオをあるだけ持って来て下さい。AIに学習させ、お母様を再現します」    子供たちは全てを差し出した。  手紙。  メール。  写真。  動画。  母の全てを。    数日後、一つのURLが届いた。   『久しぶり。元気にしてる?』    母の声が流れた。  世界に存在するはずのない母が、画面の中に創られていた。    子供たちは泣き、縋りついた。   「どうしたのよ。お母さんは、そんなに弱く育てた覚えはないわよ?」    母と同じ存在に、子供たちは依存した。  まるで母が生き返ったかのように、日々を過ごした。  一緒に食卓を囲うことはできなかったが、充分だった。  画面の中に、母がいるのだから。              数年後。    画面は消されたまま。    AIとして蘇った母は、今日も意識を停止して暗闇に座り続けている。    子供たちが何をしているのか、母は知らない。
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