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「なしてだ・・・ どうしてだ・・・」
タヌキのスポンは、項垂れて街の中を歩き続けた。
「もう1回、あともう1回化けると俺が死ぬなんて・・・ 考えなくないよー!!」
夢の中で目の前に現れた、化け学の支障タヌキの忠告を真に受けたタヌキのスポンは目に涙を浮かべて、行き交う人々を通りの片隅で見上げていた。
「化けられなくなったら、どうしよう・・・俺かっこわるい・・・」
タヌキのスポンは、化けることは唯一の生き甲斐だった。
それだけに、生き甲斐を奪われたショックは計り知れなかった。
「あと1回で・・・あと1回で・・・俺は・・・ん?」
くんか、くんか、くんか、くんか、
タヌキのスポンの黒光りする鼻に、焦げ臭いを嗅いが入ってきた。
「火事だ!!火事だーーーー!!」
「電話119番呼んだか?!」
「呼んだけど、渋滞で来られないってさ!!」
「火事の建物の中に人が取り残されてるってー!!」
「ど、どうしよう!!」
「人間が火事で騒いでる!!化けて助け・・・化けて?!」
タヌキのスポンは、後1回化ければ細胞が崩壊して死ぬという師匠の警告が、脳裏に過った。
「ええいっ!!この命より、人間の命だ!!散々俺はこの街で化けて人間を騙したんだ!!
俺の最期は人間を助けて死ぬのが本望だ!!」
タヌキのスポンは、深く息を吸い込むと身体中の全神経をガタガタになった細胞に集中させると、空中で一回転して、ドロン!!
消防車に化けた。
う~~う~~う~~う~~!!
「消防車がやっと来たぞ!!」
「しかし、この消防車小さくね?大丈夫か?」
タヌキの化けた消防車は、水道にタヌキの口を押し付けると、
ドドドドドドドドドド!!!!!
どんどんどんどん水が身体に入り込んで、どんどんどんどんどんどんどんどん、ぷくーーーーっと膨張した。
「何なんだ?この消防車は?!」
「この消防車は風船か?!」
「だから早く消防車!!火事を消してくれ!!」
人間の野次馬の声に、タヌキの消防車は焦った。
・・・どんどん水を取り込んで込んで俺の口から消火活動をしようも・・・
・・・うっ・・・!!
・・・細胞がもう限界に達して身体の隙間から水がどんどんはみ出て動いたら、とたんに破裂してこの街一帯が水害に・・・?!
・・・そうだ・・・!!もう俺は死ぬ運命だ・・・!!
タヌキの消防車は何を思ったか、燃え盛る火事の建物の中に突っ込んだ。
バァーーーーーーーーン!!
タヌキの消防車は突然パンクして、火事の建物に水がドバーーーーーーッと溢れ出て、火の手は一気に消し止められた。
「やったー!!消火したーーー!!」
「救急車が来たぞ!!建物の中の人は全員無事だ!!」
「あれ???ここに・・・タヌキの・・・死骸?」
「こ、このタヌキは?!」
建物の焼け跡に、割れた風船のように四散したタヌキのスポンの亡骸が引っかかっていた。
そのタヌキのスポンの顔は、何かをやりきったように満足そうな笑顔を浮かべていた。
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