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「美味しい!」
「それはよかったです」
上品な笑みの久方さんに子供のような感想しか言えなくて恥ずかしい。でも、本当に美味しいという言葉しか出てこないほど美味しい。
「一歌さんお酒は飲めますか?」
「は、はい。実は今年の夏で二十歳になったんですけど、意外とハマってまして」
「それはおめでとうございます。良ければ私のおすすめでもいいですか?」
「もちろんです!」
お酒の知識が皆無なのでいつも友達が教えてくれてそれを飲んでいる。好みの味もあれば苦手な味もありお酒を飲むのは楽しかった。久方さんならきっと美味しいお酒を選んでくれるに違いない。わくわくと胸を躍らせながら残っていた前菜を口に運んだ。
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「ひさぁ‥かたさぁん」
「どうしました?一歌さん」
久方さんが選んでくれたお酒は口当たりも良く飲みやすいのに意外と度数が高かったらしい。ふわふわしてとても気分がいい。友達にも強い方だと言われていたからこんなに酔えるなんて思いもしなかった。久方さんとの話は楽しくて食事が終わっても談笑していた。自分のこと田舎から上京してきたこと、大学のこと、酔いが回って普段は口数が少ないが陽気に話してしまう。
ふと、時間が気になりスマホで確認すると日付を過ぎ終電が終わっている時刻だった。お酒のせいで陽気になっているせいかタクシーで帰ればいいやーと軽い気持ちになる。
「わたしそろそろ帰りまぁすー。今日はぁ楽しい時間をありがとうございまぁした」
「そんなに酔っていて心配です。良かったら泊まっていってください」
眉を下げ心配そうな久方さん。
その話はとても魅力的だが生憎、貧乏大学生に高級ホテルに泊まれるお金なんてあるわけない。どう伝えようか言い淀んでいると「お金の心配はしないでください。助けてもらったお礼です」と意図を汲み取ってくれた。例え同じ部屋でもお金はかかるわけで流石に申し訳なく感じる。豪華な食事もご馳走になり高級ホテルの宿泊代も出してくれるなんて久方さんは聖人なのだろうか。ただ切符の買い方と道案内をしただけなのに何倍にもなって返ってきた。
「お部屋から見える夜景がとても綺麗なので一歌さんに見て欲しいんです。行きましょう?」
長い指先が差し出され反射的に手を添えてしまう。こんなにお金を出してもらってもいいのだろうかと心配していると久方さんが嬉しそうに笑っているのでご厚意に甘えることにした。
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