case2

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 Pを訪ねて客が来る。背筋の伸びた女性である。店の中を忙しなくぐるぐると見回す。誰の気配も感じられずに不審に思う。真っ赤なエナメルのピンヒールを鋭く鳴らし、店の中ほどまで移動する。それから書き物机の向こうを覗き込む。そこにPは座っている。 「あら、あなただけ?」  女性はきつい口調である。余地や含みは一切ない。Pは驚いたように顔を上げる。もちろんPは、女性が入ってきたことを心得ている。 「大人は誰かいないの?」 「いえ、僕だけです。」  Pはきっぱりと言う。書き物机からそっと立ち上がる。喉元から出るソプラノの声を楽しんでいる。 「僕の店なので。」 「嘘、おっしゃい。」  女性はPを上から下まで眺め渡す。最後に顔に目を留める。しきりと自分の顎を触っている。いらいらした時の癖なのである。 「あなた、まだ小学生でしょう? 私、欲しいものがあって来たんだけど、他に誰かいないのかしら。」 「僕が承ります。」  Pは子供特有の笑顔を作る。純度の高い笑みである。それでも女性は眉をしかめる。予想できなかった事態を楽しむことを、女性はしたことがない。 「それなら言うけど、私、幸福が欲しいの。どう?」  挑むような物言いである。Pは見上げる姿勢で女性の目を覗き込む。随分強固な殻だと思う。内心とても恐れているのである。それをくるんでつんけんしている。 「しばらくお待ち下さい。」  Pは店の奥の暗がりに消えてしまう。こちらも余地や含みを放棄している。女性は慌てて暗がりに声をかける。 「ちょっと、私、幸福って言ったのよ。あるわけないじゃない。」  暗がりから答えはない。Pは殊更時間をかける。女性は途端に不安を意識して、あちらこちらに視線を動かす。  書き物机の上には空色の模型飛行機が乗っている。まだ羽根がついていないものである。今からPが嵌め込むところだったのだ。女性は顎にやっていた右手を外して、そっと羽根を持ち上げる。それからすぐに元に戻す。  次に突然こちらに顔を向ける。気味の悪いものを見つけたように、しばらく眉をひそめている。  かたんと盆を鳴らしながら、Pが明かりの下に戻ってくる。女性はPと向き合う。盆の上に転がりながら載っている二つの球体を一瞥する。
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