発情期でもないのに・・・・・

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発情期でもないのに・・・・・

獅将(しおん)を抱く手が震えた。 始めて経験した、あの子供の頃の記憶はずっと頭の中に残っていた。 獅将(しおん)から沸き立つような、甘いフェロモンに頭の芯が痺れたような感覚になった。 子供ながらに、なにか悪い事をしている気がして、獅将(しおん)の母親が現れた時、何とも言えない気持ちになった。 あれが、オメガの発情期だと知ったのは、だいぶ経ってからだった。 その時既にアルファ専用の高校へ入学し、大学も留学することが決まっていた。 獅将(しおん)に連絡することも、会いに行くこともできなかった。 大人になった獅将(しおん)を抱きしめ、熱い抱擁とキスを繰り返す。 オメガの匂いが俺の理性を崩壊させる。 耳に届くはぁはぁと言う呼吸は自分のものだろうか、獅将(しおん)のものかわからない。 お互いの気持ちを確かめながら熱く見つめ合う。 自然と唇が重なり、ベッドの上でのキスは先ほどのキスより甘く熱を孕んでいた。 温度の高い舌先が俺の唇を開き口内へ入ってくる。 口の中でいやらしく動き、キスの余韻を味わう隙もない。 奥まで味わうような激しいキスで、呼吸まで飲み込まれた。 さっきの優しいキスとは別人みたいな獅将(しおん)のキス、舌が絡まるキスをしたままゆっくりベッドへ押し倒した。 自然と唇が離れ瞼を開くと、獅将(しおん)と目が合った。 獅将(しおん)の腰をガッチリと固定するように掴んだ。 獅将(しおん)が俺への恨み言を呟く。 「お前を愛してる。失いたくない。もう二度と俺の前から消えるな。俺を置き去りにしたくせに、メール一本残さず居なくなるんだから、俺がどれだけお前を求めたかわかるか?」 切れ長の瞳が細められて、肩口に顔を埋めるようにしてつぶやいた。 獅将(しおん)の泣きそうな声がいつまでも、俺の耳元で囁き続けた。 最後に腰を突き立て、引き絞るような声を上げながら、獅将(しおん)の中に熱情を放った。 永い想いが果たされ自分も疲れていたせいか、彼の寝息に誘われて深い眠りの中へ落ちていく。 あの日別れた獅将(しおん)は、今やっと俺の腕の中にいた。 心の中でありがとうとつぶやいた。
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