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拒否反応
その日、構内のレストランで同じ職場の杉浦 拓磨と食事をしていると、急に激しい吐き気に襲われた。
こんな症状は始めてで、発情期のヒートとは違う嘔吐と悪寒で身体が勝手に震え出した。
「拓磨……」
「獅将、大丈夫か?」
拓磨に抱えられて、医務室へ行くと校医に血液検査をされ、アルファへの拒絶反応だと言われた。
すぐに抑制剤とは違うアレルギー反応を抑える、第二世代抗ヒスタミン薬を点滴された。
症状はすぐに収まったが、アルファに拒否反応を起こしたのは始めてだった。
拓磨は同じオメガだがこんな症状を起こしたことはないと言う。
レストランにアルファが居たかどうかも分からない。
番となるアルファを探そうにも、拒否反応を起こすようではアルファに近ずく事さえできない。
なぜ今頃になってアルファへ拒否反応を起こすのか、校医に聞いても病院で検査を受けても原因は分からなかった。
しかもこれまで何度かアルファに告白した、そのたびにどのアルファからも恋人にはなれないと断られていた。
好きになって告白したわけではないから、それほどショックを受けたことはないが、それでも告白を断られる事にはなれないし、嫌な気持ちになるし落ち込む。
早く番を見つけたい気持ちが焦りを生み、少しでも優しかったり見た目のいいアルファが居ると告白するのが使命のようになってしまった。
本当は心から好きになった相手と番になりたいと思うのに、そんな相手が見つかる希望は希少だといってもいい。
しかもアルファによっては激しい拒絶反応まで起こす今となっては、アルファを見つけることは最早絶望的だった。
拓磨がアルファだったら、彼ほど理想の相手はいない。
背も高く、容姿も良く最高にカッコいい、しかも父親は優秀なアルファで音楽業界にはなくてはならないほどの大物プロデューサー、母親はファッション雑誌の編集長をしている。
勿論どちらもアルファだ、一人息子の彼が俺と同じようにオメガに生まれたのは運命のいたずらだとしか思えない。
それでもどうゆうわけか、拓磨はアルファを探している様子はなく、いつも俺のそばから離れない。
お互いオメガだから一緒に居ても気にならないし、話も合うから楽しい。
本当に彼がアルファだった……何度そう願ったことか。
今日も朝から拓磨と一緒に研究資料を探しに図書館へ来ていた。
彼は文学部の教師をしている、たまに執筆活動もしているようだが作品を見たことはない。
彼がどんな作品を書いているのか、興味がないわけではないが作品には彼の内面が描かれているようで読むのが怖かった。
彼は自分がオメガだと言う事をどう思っているのか、これまで一度も聞いたことが無かった。
俺と同じように運命のアルファを待っているのだろうか?
そんな彼は時々、突拍子もないことを言う…………
「なぁ、俺たち運命のアルファに巡り合えなかったら、ずっと一緒に居よう」
「…………そうだな…………それもありかな」
「運命の相手なんてそうそういるもんじゃないだろ………」
「わかってるけど、それでも運命の相手と番になって子供が欲しい。俺に似た可愛い息子が見たい。お前だってそう思ってるだろ?」
「俺はそうでもない、アルファ優位のこんな世界に生まれる子供が幸せになる確率は少ないだろ」
「そうだけど………俺たちどうしてオメガなんだろうな?」
「そんなこと言うなよ、俺はお前と出会えてオメガでよかったって思ってる」
「俺はお前がアルファだったら良かったのにって、いつも思ってる」
「…………」
いつもの会話を繰り返し、最後はいつもこんなやり取りで終わる。
なんど同じやり取りをしたか分からない、そしていつも最後はお互い悲しい気持ちで会話を終える。
拓磨がアルファだったら、その言葉がどれほど彼を傷つけているか、俺は分かっていて口にしていた。
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