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拒否反応の原因
優秀なアルファを生むオメガはアルファにとっても貴重な存在とされ、オメガの中でも特に秀でた才能と見目麗しいオメガを求めるものは多い。
だからこそ、オメガは自分の意志で自分に相応しいアルファを選択できるようになった。
特に有名人や資産家の子弟、そして社会的著名人のアルファは有能な後継者を欲しがり、その為に貴重なオメガを探していると言われている。
自分がそんなアルファたちの対象になっていることはもちろん承知している、とはいえアルファなら誰でもいいとは思ってはいない。
出来る事なら、好きになって運命を感じる相手と生涯を共にしたいと思っている。
アルファの拒否反応が起きてから、何度もその原因を探してみたが今のところ分かっていない。
今日も友人の拓磨と一緒に文学部のセミナーに参加していた。
彼は文学・言語学科に所属し、俺は人間学科に所属している。
科は違うが同じ文学部に所属する身として、今日のセミナーは欠かせないものだった。
セミナーが終わって2人で食事をしている時突然それは起こった。
あの時の同じように激しい嘔吐感と悪寒、そして体の震えだった。
立っていられないほどの身体の震えで、拓磨の腕にすがりトイレに駆け込んだ。
「俺の……胸ポケット抗生剤を………」
「獅将、飲め」
処方された抗生剤を飲むことですぐに症状は緩和したが、もし一人だったら…………それを思うと怖かった。
レストランで椅子に座ってすぐ、同じセミナーに参加していた男が肩に手を掛けた瞬間気分が悪くなった。
その話をするとすぐに拓磨が男を探し出し彼に尋ねた。
「失礼ですが、先生はどちらの大学でしょうか?」
「私はW大の逆瀬川です。あなたは確かT大の杉浦 拓磨先生ですよね」
「そうです」
「もう一人の方は広森 獅将先生でしたね」
「我々をご存じでしたか?」
「勿論、あなた方は優秀なオメガですから我々アルファの中で知らないものは居ませんよ。しかしどう見てもアルファにしか見えませんね」
「あなたはアルファなんですね、オメガに偏見をお持ちですか?」
「とんでもないです、貴方達のような優秀なオメガは貴重な存在ですからね。偏見なんて持っていませんよ」
「そうですか、失礼しました」
「またお目にかかりましょう」
彼の眼はどう見てもオメガを見下すような、そんな嫌な感じだった。
もしかしたら獅将の拒否反応の原因が分かったかもしれない…………
急いでトイレに戻って獅将に逆瀬川の話をした。
オメガだと言うだけで嫌悪感をむき出しにするアルファが居るのは知っている。
どんなに優秀でも、やはりオメガは淫乱で淫靡なフェロモンで、アルファを誘うと思い込んでいるものが存在する。
それは仕方がないと諦めてはいても、やはりそれを顕著に感じるといい気持ちはしない。
拒否反応の原因が分かったみれば、アルファからの嫌悪感や憎悪にも似た感情を感じたからだった。
外見的には決してそうは見えなくても、心の中はわからない。
だがそれを身体が感じることで、自然と拒否反応を起こしていた。
これまで拒否反応がなかったという事は、そう感じる人に出会わなかったと言うだけでそれはそれで嬉しかった。
理由さえ分かれば拒否反応も怖いと思わなかった、ようするにオメガを嫌うアルファに近づかなければいい。
そういうやつはたいてい見ればわかるし、そうゆう空気を醸し出している。
そんなアルファなんてこちからお断りだ、優秀なオメガにとって選ぶのはこっちであって選ばれるのを待っているわけではない。
居丈高なアルファに限って大したことはなく、自分がアルファだと言うだけの中身は空っぽの奴が多い。
だからこそ、優秀なオメガに劣等感と嫌悪感を感じている。
オメガだアルファだと言う前に人間性の問題なのだ。
授業が終わってレストランへ向かっていると、拓磨が後ろからついてきた。
「獅将、俺も行く」
2人で並んでテーブルに着いた、その時2年の生徒が近づいてきた。
「先生、僕もご一緒していいですか?」
「構わないよ」
「僕、先生の授業楽しみにしてます」
「そう、それはありがとう」
「拓磨,良かったじゃないか。生徒に好かれるなんてめったにないぞ」
「お二人は仲がいいんですね」
「まぁな、広森先生は生徒に人気ありますよね。杉浦先生もそうですけど」
「そうか?ありがとう」
彼の拓磨を見つめる目が彼への気持ちを雄弁に語っていた。
彼は拓磨の事を好きなのだろう。
食事が終わって彼が立ち去ってから、拓磨にそれとなく聞いてみた。
「あの子お前の事好きなんじゃないか?」
「分かってる、前から気が付いてた」
「そうなんだ、お前はどうなんだ?」
「生徒に手を出す気はない、お前とは違う」
「冗談だろ、俺だって生徒には手は出してない」
「そうか?この前に若い奴は?」
「あれは後輩の研修生だよ、とっくに卒業してる。それに付き合ってるわけじゃないしな」
「まったく、お前の節操なしにあきれるな」
「そういうなよ」
拓磨は心から呆れたと言う顔をして俺を睨んだ。
「そういえば、新しい准教授が来るって聞いたか?」
「聞いてない。文学科か?」
「そうだ、なぜそう思った?」
「去年、文学科の教授が退官しただろその後任を探してるって聞いてたから。でも来るのは准教授なんだ」
「若いけど相当なやり手らしい」
「そうなんだ」
教師から准教授になるのはそう難しくはないが、准教授から教授になるのは相当な努力と実績、それと強力な後ろ盾が必要となってくる。
それらがすべてそろっても、教授になるのは難しい。
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