新任

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新任

新任の准教授が来たのは、拓磨の話を聞いてから1週間後の事だった。 その日授業を終えた俺と拓磨は、夕方までの空いた時間をコーヒーでも飲みながら過ごそうと構内のカフェへ来ていた。 昼下がりのカフェは客も少なく、長居するにはもってこいの場所だった。 お互いぬるくなったコーヒーを飲みながら、図書館で借りた本を読んでいた。 その時誰かが、俺の肩に手を置いた。 その瞬間、激しい頭痛と悪寒に襲われ、身体が激しく震えだした。 アルファの拒否反応だと分かった拓磨が、俺のポケットから抗生剤を取り出し、俺の口に押し込んだ。 コップを持つことも出来ない俺に拓磨はコップの水を口に含むと、俺の口に流し込んだ。 水と共に嚥下した抗生剤のお陰で身体の震えはすぐに止まった。 肩で息をする俺の後ろには一人の男が立っていた。 「おい!こいつから離れろ」 「…………どういう意味だ?」 「お前が居るとこいつが困るんだよ」 「悪いが説明してくれないか?ただ、向こうへ行けと言われても納得しかねるんだが……」 「拓磨…………もういい。出よう」 席を立ちcafeを出ようと拓磨を促し、歩き出した。 その時、男が俺の腕を掴んだ。 「獅将(しおん)……俺だ。(れい)だ。忘れたのか?」 そう言われても分からなかった。 「れい?」 「獅将、月迫 怜(つきさこ れい)だよ。君に逢いたかった。ずっと探してたんだ」 そう言われても…………俺の記憶の中にという名前は思い当たらなかった。 しかも拒否反応を起こしたのはどう考えてもこの男だった。 「あなたは俺を知ってるようだが、もしアルファなら今後一切近づかないでほしい」 「さっきから意味が分からないんだが………」 「俺をよく思っていないアルファが近ずくとさっきのように拒否反応を起こすんだ。あなたが俺の事をオメガだと認識し、内心見下すような気持ちがそうさせている。だから今後一切近ずくな」 「獅将、行こう」 拓磨に支えられcafeを後にした。 さっきの男が誰だったのか? 名前は何と言ったのか、よく覚えていなかった。 ただあの男が近づいたことで、拒否反応が起こったと言う事だけは明らかだった。 自分の事をよく思わない人間が居ることが少なからず、ショックだった。
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