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れいと名乗った男と逢ってから1週間ほどたって、スマートフォンに誰だかわからない相手からの着信が何度かあった。
相手が分からない電話に出る気はなく、だからと言って着信拒否をするほどには思っていなかった。
それでも日に数回掛かる、同じ番号からの電話は気になっていた。
もしかしたら、誰か知ってる人からかもしれないと、一度出てみることにした。
もし迷惑電話ならその時点で着信拒否にしてしまえばいい。
何度目かの電話をスルーした後、家に帰って落ち着いたところで再度電話が鳴った。
「はい!」
「やっと出てくれた。俺の事思い出してくれた?月迫 怜だけど・・・・・」
「君か?この前カフェで逢った人ですよね?」
「まだ思い出さない?獅将」
「・・・・・ごめん、ほんとに知り合い?」
「小学校で一緒だった怜だけど・・・・・」
その時、唐突に俺の記憶の中から昔の想い出が蘇った・・・・・始めての発情期、そして窓から侵入した怜が、俺の名前を呼びながら抱き着いて来たあの日の記憶。
「怜・・・・・月迫 怜?」
「思い出した?元気だったか?俺のこと忘れちまったのか?」
「怜・・・・・お前何処行ってたんだよ。いきなり居なくなったくせに・・・・・」
「ごめんな、お前がオメガだって分かって、俺の両親はお前と逢うことを禁じた。
そしてアルファだけの学校に転校して寮に入れられたんだ。だから逢いに行くことも出来なかった。高校を卒業した後はそのままイギリスの大学に入って、日本に帰ってきたのは2年前だった、すぐにお前の行方を必死で捜したんだ、やっとこの大学にいることが分かったのに・・・・・」
「怜・・・・・逢いたかった」
「俺も…………」
「どうして電話したんだ?」
「お前を見つけた日にお前が言っただろ。俺がそばに行くと拒否反応が起きるって、あれどうゆう意味なんだ?俺はお前に近づくことも出来ないのか?」
「…………俺は…………どうやらアルファの中でも、俺にいい感情を持ってない奴が側に来ると拒否反応を起こすんだ。
一種のアレルギーってやつなんだけど…………お前が俺の事をそんな風に思ってるとは思えないけど………」
「そんなバカな………俺はお前の事が好きなんだ、嫌な感情なんて微塵も持ってないぞ……どうしたらいい?今すぐ逢いたい」
「怜………俺にも分からない」
「この前お前のそばにいたあいつは、彼氏じゃないよな?」
「あいつは親友だよ、同じオメガで杉浦 拓磨って言うんだ」
「そうか……いつも一緒なのか?」
「俺の事を一番分かってるから、拒否反応が出た時の対処もあいつが居てくれれば安心だしな」
「獅将、お前の拒否反応の原因俺が調べてみる」
「怜・・・・・」
「また電話する、今度は必ず出ろよ」
「わかった、怜お前が逢いに来てくれて嬉しいよ。忘れててごめん」
「獅将・・・・・」
電話が切れた後もずっと怜の事を考えていた。
あの日窓から入って来た怜が発情した俺のフェロモンに感化されたこと、その後二度と怜に逢えなかった事・・・・・
幼いころの悲しい想い出が次々に俺の記憶の海の中から浮かび上がった。
俺の一番逢いたかった人だった。
どうして忘れていたのだろう……そうじゃない、忘れなければ悲しすぎたからだった。
怜がアルファで俺がオメガだという現実が俺から怜の記憶を消し去った。
やっと大人になって怜に逢えたのに、俺の身体は怜を拒否していた。
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