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ドッペルゲンガーを見た人は近いうちに死ぬ。
その覚悟が出来た人だけ助かるかもしれない。
そう言って憚らない知人のA〔仮名〕。この話は、そんなAから聞いた話です。
Aは、ある時、ネットでエゴサをしたのです。
数人の悪友たちと酒を酌み交わしている時に。
エゴサとは、知っているかもしれませんが、エゴサーチの略で、ここで言うエゴサはA自身の氏名をネット検索にかけてネットでの自分の評価を調べる事です。無論、Aは著名人でもなければ炎上など経験した事のない一般的な社会人です。
ネット検索をかけたところで、なんの情報も得られないのが当たり前でしょう。
しかし。
その時、集まっていた悪友たちとの話のネタになればとエゴサをしたそうです。
すると。
何故なのか偶然にも、いや、それは必然だったのか、とにかくAと思しき人間の行動を書き記したX〔旧ツイッター〕のアカウントを発見したのです。しかもアカウント名はA本人の本名。無論、Aは、そんなアカウントを運営していません。
その時、
いくらかの気持ち悪さを覚え。
同時にAのプライベートを暴露するような数々の発言にイラッとしたそうです。
もちろん、そこに書かれているAの行動は身に覚えがないものばかりだったそうです。もし、仮にでも、このアカウントが自分の事〔Aの事〕を言っているならば悪質なイタズラ以外の何ものでもないと憤慨したそうです。しかしながら……、
件のアカウントは、誰が、運営しているのか?
心当たりなどなく、むしろエゴサを薦めてきた悪友たちの誰かがネタとして仕込んだのかとも思ったそうです。もちろん悪友たちを問い詰めて犯人探しもしたそうですが、その誰もが、知らねぇ、と、真面目な顔をして答えられたそうです。
そうして、そのアカウントの発言を調べてゆくと不思議な事に気づいたのです。
ほとんどの発言は、日付と、その日にAがやった事〔行動〕が書かれていたそうですが、その日付が去年のものではなくて〔※年は書いてなかった為に〕今年の事をいっているのであれば未来の出来事になってしまうという違和感でした。
同時に、それと同じくらい不思議だったのは、
Aしか知り得ない極めて個人的な情報も詳細に書き込まれていたそうです。こうなると単なるイタズラで済ませられないほどの、ある意味で重度のストーカーとも言える人物がアカウントを運営しているという結論に達するしかありません。
そうして、Aは、また恐くなって身震いをしたとのことでした。
しかしながら、そうは言えど件のアカウントを誰が運営しているのか、その心当たりもありません。むしろAという人物は好漢ともいえる男で他人に恨まれるような人物ではありません。いや、逆に謎の人物をストーカーとして見た場合……。
好漢であるからこそ、とも勘ぐれますが……、
当時、そういった恋愛での問題を抱えていたという事実すらありませんでした。
兎に角。
どちらにしろ件の謎の人物が誰なのかは皆目見当がつかず、恐くはあれど、これ以上は調べられないという無力感から、とりあえずは様子を見ようという事になりました。もしかしたら単なる人違いなのかもしれないと無理にも自分を納得させ。
そして、
数日間は、忙しさにかまけて、件のXのアカウントの事は忘れていたそうです。
しかし、その数日後の、ある日、Aは、階段から落ちて右足を怪我をしました。
幸い、大した事はなかったのですが、病院での待ち時間にスマホを弄りながらフッと、あのXのアカウントの事を思い出したそうです。○○病院での待ち時間。ヒマすぎる。まあ、幸い怪我は大した事がなかった。という短い文章を、です。
確か、そういう一文があった、と戦々恐々として再びエゴサをしたらしいです。
そして、
その謎のアカウントへと行き着いたそうです。
やはり、
あの短い発言〔○○病院での……という文章〕は、確かに書き込まれており、恐る恐るで発言に添えられた日付を確認したそうです。すると、そこには、今、まさに今日の日付が書かれていたそうです。Aは愕然とするしかなかったようです。
無論、○○病院という固有名詞も、一字一句、間違いなく書き込まれています。
それは、今、いるココで間違いなく、心臓は早鐘を打ったよう動悸が止まらず。
これは、ともすれば、自分の未来に起こる出来事を予言したものじゃないのか?
そんな風にも思ったそうです。
そして。
怪我や病院の事もあり、再び、冷や汗が溢れ出てきて。だからこそ、必死で、どんどんと別の発言を調べたそうです。その内に最期の発言に辿り着き、そこに書かれていた事は、今日、死ぬかもしれない。いや、死にたくない。絶対に、と。
というものだったらしいです。
一体なぜ死ぬのか、その肝心な理由は書かれていません。
むしろ知らない方がいいとばかりにも日付と死ぬかもしれないという事だけが。
それが余計に恐くなって震えが止まらなかったそうです。
しかし、先に述べておきますが、彼は死んではいません。
九死に一生を得て今でも生きています。ある出来事が起こったからこそ、です。
その出来事の詳細は後々に譲るとして、兎に角、その後。
謎のアカウントに書かれた予言達〔?〕は一つの例外もなく当たり続けました。
あの病院での診察、そうして、怪我が、たまたま謎の発言とシンクロしただけ。
以外の予言が当たったのも億分の一という天文学的な数値での確率でリンクしただけだと、と希望的観測にでもすがらないとやってられないほどの絶望を感じてしまっていたそうです。そして最期の発言に書かれた日付は刻一刻と近づき……。
まるで、
全身をロープで拘束され、身動きが出来ない中、血が滴る刃物を持った殺人鬼が窓を突き破って侵入してくるよう、時は無情にも進み、その日は訪れたのです。その日は別に何ともない晴れた、ごく普通の日曜で逆にソレが恐かったそうです。
ドキッ。
ドキッ。
ドキッ。
胸の鼓動が鳴き止まず、アレか、コレか、と周りに在る全てを疑ったそうです。
そして家から出る事を止め、部屋に籠もっていたのです。
一人暮らしの寝室に籠もり、寝室に通ずるドアには鍵をかけ。そうして布団を頭から被り、震えていると。ガチャリと大きな音がして。一人暮らしで誰も居ないはずの彼の家の中、彼の籠もる寝室に、彼ではない誰かが入ってきたそうです。
その時。
今、入ってきたコイツが、自分の命を脅かす元凶なのだ、と確信したそうです。
そう思ったら殺されない為に、やられる前にやるとばかり布団を投げ捨て……。
しかし。
布団から出た彼は言葉を失い茫然自失となったそうです。
そう。そこに居たのは、なんと彼ではない彼。どこからどう見ても自分にしか見えない彼ではない彼だったのです。もちろん不思議な事にも服装なども彼と同じもので、彼を形作る体という点においても、まさにうり二つだったと言うのです。
ほくろの位置、背の高さ、体型、そして容姿、それらは彼でしかなったのです。
自分でない彼は部屋に入ってきましたが、それ以上の事は何もせず、黙ったまま彼を見つめていたそうです。その時、彼は、彼の部屋の玄関が開いて無い事に気づき、その彼ではない彼が、どこから来たのか、という疑問を持ったそうです。
そして。
幾ばくかの間、自分に見つめられる自分という不思議な空間で時を過ごし……。
自分でない彼の悲しくもソレでも生きる事を諦めるなと諭すような瞳との交錯。
その後。
彼でない彼は、まるで白煙が溶けるようにソコから掻き消えていったようです。
暴れる心臓を飼い慣らせないまま彼は今し方の不思議な体験を省みたそうです。そして達した結論がアレはドッペルゲンガーではないのかというものでした。加えてドッペルゲンガーを見たものは近い内に死ぬという都市伝説を思いだし……。
その結論は、あの不可思議なアカウントでの発言である死ぬかもとリンクして。
もうソコまで来た彼は、ある種の悟りというか、諦めの境地に達してしまい、から笑いをしてしまったそうです。瞳からは冷たい涙を流しながら。どんな理由で死ぬのかは分からないけども……、それでも自分は死ぬんだなと絶望に苛まれ。
同時に、
これから起こる事を乗り越えれば死を免れるかもしれない。そんな風にも思ったようです。それはドッペルゲンガーが見つめてきた時、悲しそうでいて、その上で生きる事を諦めるなという諭すような瞳との交錯があったからこそ。
とッ!!
いつの間にかガス栓を開けられたのか、いや、ともすれば閉め忘れていたのか?
そのどちらなのかは分かりませんが、キッチンからガスの匂いが漂ってきて、ヤバい、と思った瞬間には、もう遅かったそうです。どこに火種が在ったのか分かりませんが、彼の部屋でガス爆発を起こしたのです。もちろん、その後、火事に。
しかしながら先にも述べましたが、彼は九死に一生を得て今でも生きています。
彼の眼前に現われたドッペルゲンガーによってある種の覚悟が出来たからこそ。
ただし。
彼は断言するのです。俺は、一回、死んだ。それは間違いない。あのガス爆発の中で自分の体から魂と言えばいいのか、なんというか、表現が難しいけど、そのふわふわした自分自身という存在が体から抜け出たのだからと。そう言っています。
しかも。
その抜け出た時に件の謎のアカウントを運営していた主も分かったと言います。
それは自分自身だったのだと。
つまり。
体から抜け出した自分だと言うのです。その自分が死にたくないと強く願ったからこそ過去の自分に忠告できたと。念じるだけで不思議と電子の海に爪痕を遺せたそうです。そう。心で死にたくないと願ったらネットに書き込めたわけです。
しかも。
過去のXに。ただ、もはや不思議という気持ちもなく当然だと思ったそうです。
その書き込みを見たのが、過去の自分で、そうであるならば、数々の彼自身の未来を当てた事も、彼のプライベートな情報が書き込まれていた事も、だそうです。そうして最期の仕上げとして今日の、あの爆発の前に、と、また念じて……。
ただし。
死の原因〔ガス爆発〕だけは書かない方がいい、と思ったそうです。
ソレを書いてしまえば死から逃れる為、ガス栓を締め、運命が変わる。しかし、死という未来は収束し、ガス爆発ではなく別の原因で死ぬ事になるかもしれない。そうなると、ここまで手を打っても下手をすれば死という未来が確定してしまう。
そう思い恐くなったそうです。
そして。
のち彼は少し前の過去にいる怯えて覚悟がない彼自身に会いにいったそうです。
どうやら魂というモノは時空間〔仮想空間も含め〕の制限がなかったようです。
それが、あの寝室に侵入してきた謎のドッペルゲンガーだったというわけです。
彼に忍び寄る死が確実に近づいていると知らせる為に。覚悟を決めさせる為に。
そういった経験上、彼は、ドッペルゲンガーに会ったものは近い内に死ぬ〔……ほどの不幸が起こる〕と言っているのです。彼は、一回、死んだからこそ、過去の自分に忠告ができ、結果、生きているだけなのだと、そう確信しているのです。
これが、ドッペルゲンガーを見た人は近いうちに死ぬ。というAの体験談です。
無論、私はドッペルゲンガーを見た事はありませんし、見たいとも思いません。むしろAのような生き方が出来る人を羨ましく憧れます。ドッペルゲンガーに会っても九死に一生を得られる。そんな、ある意味で強いとも思える生き方にです。
では、また機会があれば、別の人物から聞いた別の経験談を語れれば幸いです。
お終い。
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