某S氏と名前呼び

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「奈央ー教科書見せろー」 そう言って声をかけてきたのは、赤村である。 「いやお前、私が見せるとでも?」 というのも現在テスト期間。昼休みの猛勉強中である。私の成績は中の下…くらい。 頑張らなければ。 「ちっ…んじゃぁS氏見せろー」 赤村は右前の椅子を軽くけった。 机に突っ伏せていたS氏こと、佐々木はゆっくりと起き上がる。 「なんだよ…ゆう…」 眠そうな顔をこすりながら佐々木は赤村の方を見た。 「どうせお前寝てんだから、教科書見せろよ」 佐々木はニヤッと笑った。今までに見たことのない笑みだ。 「俺が教科書持ってきてると思ってるの?ゆう」 道理である。 赤村、まぁお前が持ってきていないのが悪い。 「武井さんに借りたら?」 佐々木はさっきのニヤッとした笑みをなくすと、私の方を見た。 赤村はわざとらしく、言う。 「奈央は俺なんかに見せるのであったら自分自身の成績をあげたいんだと。奈央のためーははぁ」 「私、そんなこと言ってないわw舐めんな」 佐々木は赤村の方を見る。眠そうな目が少しだけキリッとしたような気がした。 「ゆう、アイピーは?どうせこいつ勉強しなくても点数取れるし」 こころなしか佐々木にしてはぶっきらぼうであった。 「そーじゃんwないすS氏」 「呼びました?」 私の前の席のアイピーこと相澤は、赤村の方を向いた。 「あなたがお望みなのはこれかな?」 まるでなにかのカードアニメのような、構え(教科書を中指と人差し指で挟んでいる)である。 「そう!それだよアイピー!!まじ助かった」 赤村は席を立つと相澤は の方へ歩く。 っていっても私の前の席だからそんなに距離はないのだけど。 「はははwただで教科書がもらえるだとも?僕と勝負だ」 「何!?そ…それは闇のデュエルっ」 早速茶番が始まっている。 いや勉強しろよ。 私は教科書を見つめた。うるさい茶番をシャットアウトしてシャーペンを持った。 すると 「…ねぇ」 佐々木だ。机に伏せた顔をこちらに向けている。 「どした」 私は教科書を眺めながら答えた。 軽く足がぶつかる。これは…S氏特有の合図だ。 右の方を向き、彼と目を合わせた。 「俺も奈央って呼んでいい?」 !!!?? 「はぇっ!?」 えっと、え?え…? 佐々木は少し優しそうに微笑んだ。 え、なにそれ。その顔好みなんですが。 「奈央」 やめて…ちょ… 「え…S氏…」 佐々木はいつもどおりの笑みに戻った。 「んじゃぁ奈央、これからも起こしてね」 「い…いやちょっと…S氏…」 私は起こす係かいwとか、色々突っ込みどころはあったけど。それどころではなかった。 佐々木は満足そうに笑うとそのまま、机にうつ伏せになる。 「S氏…」 なんか、心臓がバックバク言ってるんですがこれはなんですか。 シャーペンを握っている手が異常なほど熱い。 「…なんでこうなるの…」 熱いんだけど、とつぶやいた。 が、そのつぶやきは誰にも届いていない。 前のふざけている二人の会話にそっと耳を澄ませた。 「ぐああっ!」 「ふっふっふ…あなたもそこまでだったようだ」 「いいや!まだ終わってないさ、俺には切り札がある!!」 「何ぃ!?」 「サイン・コサイン・タンジェント!!!」 「な…なんだって!!それは高校で習う三角関数!語呂だけは知っていても、まだ僕たちにはやりかたが…」 相澤はわざとらしくよろめいた。 「わ…わからない…僕の負けさ赤村」 なんだこれw ふふっ、と笑える頃には体中の熱が通常に戻っていた。 なぜあんな事になったのかは一生わからないような気がした。 続く
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