Shining Days

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「学校を花で埋め尽くす」を実現した咲楽先輩は、夏休みが終わると「美化委員こそ全委員会の中で一番の花形であると知らしめる」を次なる目標に動き出した。  具体的になにをしたのかと言うと、委員会であるにも関わらず体育祭の部活対抗リレーに参加したり、文化祭で「アオハル生け花教室」なる珍妙な催し物を企画したりした。  部活対抗リレーでは当然歴戦の運動部たちにボロ負けし、「アオハル生け花教室」では、会場として借りていた職員室横の会議室で、ずっと閑古鳥が鳴いていたけど。  まあ、「アオハル生け花教室」の内容は、雀の涙ほどの委員会費で爆買いした花々を参加者が「青春」というお題の元に活けるというものだったので、妥当と言えば妥当な結果だ。    しかし結果はどうあれ、咲楽先輩の思惑通り美化委員の名は校内に知れ渡った。  有り体に言えば、一目置かれるようになったのだ。  悪目立ちをしているだけだ、という声もある。主に教師陣から。美化委員の顧問をしている中年の英語教師は職員会議がある度にこってり絞られているということを、いつだったか噂で聞いた。 「アオハル生け花教室」の当番中、咲楽先輩と二人きりになったことがある。  その時、 「次から次へとよく思い付きますね」  祭の喧騒を遠くに聞きながらぼくは訊いた。  咲楽先輩は企画で使う花々を縦横無尽に剣山に突き刺しているところだった。 「思うだけではダメだけどね」  手を止めて、咲楽先輩がぼくを見る。 「考えているだけでは形にはならない。それを言葉にして実行に移さないといけないんだ。小田島二年生、これも楽しい人生を送るうえでの秘訣だよ」 「言葉にできるのは、そもそも才能だと思いますけど」  思っていることはあっても、恥ずかしさや体裁が邪魔をして中々口に出すことは難しい。 「簡単なことだよ。思っていることを声に出すだけのことだ。現代文で教科書を音読することとなにも変わらない。君もそのうちできるようになるさ」  咲楽先輩が生け花を再開する。    なんだか気分がもやついた。  自分の気持ちを外に出すなんてぼくにはできそうもない。そんな勇気は持っていない。    余談だが、咲楽先輩が当番中の暇を持て余して作りあげた作品は生け花というよりもカラフルなまりものような代物だった。
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