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「見送り、行かなくていいのか?」
呆れたような優しい声で友平が言う。
「みんな咲楽先輩のことは好きだったけど、浩二、特に懐いてたじゃん」
「……懐いてたって」
そう言われるとなんだかこそばゆい。
「次会えるのはいつになるかわからないぞ」
顔を上げてぼくは溜息をついた。
春の柔らかい太陽が、ぼくらのことを優しく照らしていた。
どこにいても同じ空の下にさえいればまた会える、なんてことを言う人もいるけれど、それって幻想だ。会いたいと思っていたとしても、二度と会えない人もいる。
「最後に伝えたいことないのか?」
飲み終わったスプライトの缶を握りつぶして、友平が訊いてきた。
「あるよ」
咄嗟にぼくはそう言った。
咲楽先輩に伝えたいこと。伝えなきゃいけないこと。
そんなもの、たくさんあるに決まってる。
言葉にするのは怖いけど、でも、伝えずに終わってしまったら、いつかきっと後悔する。
「二時半の電車に乗っていくらしいぞ、咲楽先輩」
スマホを起動して時間を確認する。二時を少しまわっていた。
「間に合うかな」
ムラタ商店から駅までは走っても三十分はかかる。バスは先程行ってしまった。
「間に合うかどうかじゃねぇよ。やるかやらないかだ」
友平が咲楽先輩みたいなことを口にする。
それがおかしくて、二人して思わず吹き出してしまった。
空き缶とアメリカンドックの棒をごみ箱に捨てる。
咲楽先輩の言葉を思い出す。
考えているだけでは形にはならない、それを言葉にして実行に移さないといけない。
「行ってくる」
駅に向かってぼくは走り出した。
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