親の心、子に届かず

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 小雨が降る朝、私は高校2年生の娘を最寄りの駅へ車で送り届けた。  車から降り、バタンと車のドアを閉める。 「さて、私も出勤準備しなくちゃね」  そう呟きながら家の中に入ると、リビングのテーブルの上で出発を待っているランチバックが1つ。  ―――あーーーっ! 「あの子っ!お弁当を忘れていっている!」  私は保冷剤が入ってズシリと重いランチバックを手に、再び車に乗り込む。  まだ、まだ間に合う……!  駅まで徒歩で向かういつもの出発時間に車で送っていったので、時間の余裕はあるはずだ。  安全運転を心がけ、駅近くの無料駐車場へ車を停め、傘もささずに駅の改札へ走る。  人が行き交う改札の手前から覗き込むと、駅の上り線、向こう側のホームにいる娘を発見。  私の携帯に連絡が無いところをみると、どうやらお弁当箱を忘れていったことに気がついていないようだ。  出てくれるかな…?と思いながら私はそのまま娘の携帯に電話をかける。 『……はい、どうしたの』と小声の娘。 「あなた、お弁当忘れていったわよ!お母さん改札の所にいるから、取りに来て!」 『え、無理』 「は?」 『だって、ホームに凄く人がいるんだよ?動けないし、そのうち電車が来ちゃうよ』  た、確かに通勤・通学ラッシュでホームは満員だ。  その上早めに駅に到着した為か、ホームの入り口からかなり離れた場所にいる。 『ごめん、お母さん食べておいて!お昼はパンでも購買で買うから、後でお金頂戴ね!』と娘は早口で勝手な事を言って通話を終了させた。  えーーー、私の分もお弁当準備してあるのに…。  電話の向こうから『購買行ってみたかったんだよねー』という娘の心の声が聞こえたような気がしたが、忘れていったのはワザとではないとわかっている。  1年生の時は「購買でなんて先輩が怖くて買えない。絶対お弁当を作って」って言っていたのに。 「あぁ、もう。私も急がないと……」  過ぎたことをグチグチ考えていても仕方がない。  私はランチバックと共に家路についた。  車から降りるつもりがないまま娘を送ってからの出来事だったので、すっぴん眼鏡のヘアバンドしたまま前髪全開、Tシャツ短パンの姿だった事に気がついたのは、家に帰って玄関横の姿見を見た時だった。 (おしまい。お母さんは今日も頑張ります)
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