07単三電池

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07単三電池

「まぁ、そのうちどうにかなるだろう」  そうして俺とリオンはいつもどおりに執務室に戻った、その後は何事もなかったのだが”あの日”がやってきてしまった。と仰々しく言っても”あの日”とは俺のただの休日のことだ、俺にも月に一日は休日があるのだ。 「駄目!! クロは僕の傍にいて!!」 「おいおい、俺には休む権利も無いのか?」 「リオン様が言うから、駄目だ!! クロ!!」 「リオン様が泣くから、駄目よ!! クロ!!」  俺はそう言って散々皆に引き止められたが、俺だって休みが欲しい、できれば彼女も欲しいのだ。だから最終的に泣くリオンをアクアとマリンの双子に任せて、俺は久しぶりに都の街中を歩いていた。露天商をちょっとひやかしてまわったり、酒場で昼間から軽く酒を飲んだりした。酒もリオンがいる時にはろくに飲めない、リオンが大酒をすすめてきて、性的に襲われることになるからだ。 「はぁ~、酒は美味いし自由は良いな」  俺はその後も露天商をひやかしながら、市場をのんびりと歩いていた。娼館で女を抱くという選択肢もあるが、絶対にリオンに大泣きされるので止めておいた。すると俺の目にとんでもないものが飛び込んできた、この世界ではまず見ることが無いものだ。 「こっ、これはまさか!? 単三電池!!」 「おやおや、お目が高い。近頃遺跡を探索した冒険者から仕入れました、もちろんこの豆電球で電気もつきますよ」 「あんた、すぐに王城に行くんだ!! きちんと動く単三電池なら、金貨十枚で買い取って貰えるぞ!!」 「はぁ!? ほっ、本当ですか?」  リオンはぽーたぶるでぃぶいでぃぷれいやーを持っているが、これは光に当てておいても動くが単三電池があると安定して機能するのだ。だからリオンが次期国王になってからしばらくして国中の単三電池を買い占めた、それもこれも正義の味方の映像を見るためだけにである、それで国内の単三電池はリオンの元に集まった。でもこうして後から入ってくる単三電池は見逃されがちなのだ、金貨十枚といえば庶民が半年は遊んで暮らせる金額だ、露天商はさっさと店をたたんで王城へと走っていった。 「リオンの唯一の贅沢だもんなぁ」  リオンは宝石も高価な服も欲しがらない、それより単三電池でぽーたぶるでぃぶいでぃぷれいやーを見ることが好きだ。太陽の光でも充電されるようなので、昼間は光が一番当たる窓際に置いておいて、それをアクアやマリンと一緒に見るのがリオンの楽しみなのだ。俺は無事に今話した露天商が城のリオンのところへ着くように祈った、俺が外出して落ち込んでいるはずだから良い驚きになるはずだ。 「さーて、休みもそろそろ終わりだ。母さんのところに顔を出しておこう」  そうして俺は久しぶりの実家に立ち寄った、俺の実家は前は普通の家だったのだが、今は貴族の館のように立派になり見張りの従者さえいるのだ。俺が使わない給料を送る度に家は立派になっていき、いつの間にかこんなに立派な屋敷になった。俺は久しぶりに母さんの顔を見て話し元気にしているのを確かめた、それから夜も近くなってきたので王城に帰ることにした。 「リオン殿下の特別護衛のクロッシュだ、門を開けてくれ」 「ははっ!! クロッシュ様どうぞ!!」  もう俺の顔は魔王城で知れ渡っているから、城の門番もすぐに門を開けてくれた。そうしたらリオンが玄関から門のところまで走ってきて、俺に抱きついてスンスン匂いを嗅いでいた。俺はお姫様抱っこでリオンを王太子の部屋に連れていった、俺は私服だったが後宮の誰もそれを止めなかった。 「リオン、そんなに一生懸命に何を嗅いでいるんだ?」 「クロに女の匂いや香水がついてないか、しっかりと確認してるの!!」 「リオン、俺は娼館には行ってないぞ」 「うん、お酒と汗とクロのお母さんの匂いがするだけだ。ああ、良かったぁ」 「そうだろ、それより何か面白いことがあったか?」 「クロ、そうそう!! 今日は単三電池を売りに来た者がいたよ!! これでまたぽーたぶるでぃぶいでぃぷれいやーがよく動くよ!!」 「それは、良かったな」 「うん、凄く嬉しかった!!」  そう言うと俺は本来なら王太子が使う風呂に入った、リオンも当たり前の顔で一緒に入ってきた。俺はできるだけというかほぼリオンと一緒に入浴することになっている、だからこのキラキラとした金や宝石でできている浴室に入れるのだ。リオンの背中を洗ってやるのも慣れたもんだ、お返しにとリオンから背中と触らんでいい部分に触られそうになるもいつものことだ。風呂から出ると俺はいつもの寝衣に着替えた、リオンも寝衣に着替えて二人揃って一緒に眠りについた。 「クロ、ずっとずっと傍にいてね」 「それは保証できんが、今夜はお前の傍にいるよ。リオン」 「もうずっと一緒にいてくれていいのに!!」 「未来は誰にも分からん」 「ちぇ、おやすみ。クロ」 「ああ、リオン。おやすみ」  そんな休暇を過ごした翌日のことだった、またリオンの側室を選ぶ今度は舞踏会が開かれることになった。 「勘弁してよ、クロ」 「俺に言われてもな、どうしようもできん」 「かといってお茶会も、舞踏会も全て禁止すると」 「貴族から反発を買うし、外国からの客から思わぬ情報が聞けなくなるかもしれない」 「もう僕は次期魔王なのに!! ……なんて無力なんだ」 「上に立つ者の義務だっけ、傍にいてやるからそれなりに頑張れ」  王家主催で開く舞踏会は情報交換の場でもある、外国の主に属国からの情報を知ることができるのだ。そういう利点が無ければ無駄なものが嫌いなリオンが、いつまでもこんな舞踏会なんて開いているわけがなかった。俺はリオンを励ましながら舞踏会の準備をさせた、普段なら着ない立派な服も仕立てさせた。 「それじゃ、リオン。俺の傍を離れるなよ」 「もうクロと鎖で繋がりたいくらいだよ」 「ははっ、そこまではしなくていいさ」 「そう、結構いい考えかも?」 「はいはい、邪な考えは捨てて舞踏会に行くぞ」 「むー、行きたくなーい!!」  ブツブツと文句を言いつつもリオンは舞踏会の場所に出て行った、周囲の貴族が一斉にリオンを見て近くにいる者から順番に礼をしていった。リオンは俺と一緒に誰とでも会った、俺のことを一時も離さないようにしていた。どこに暗殺者がいるか分からない、俺は周囲の様子を見張っていた、すると貴族の女性らしい者からリオンが声をかけられた。 「私はカシードル国の第一王女ネイルと申します、リオン殿下」 「フライハイト国の次期国王、リオン・フライハイトです」 「なんて、美しいお方。突然のお話ですがどうか私との婚約を進めて、カシードル国とフライハイト国の親交を深めましょう」 「そのような必要は無いと思います」  リオンは属国ではないカシードル国の姫君と話したが、カシードル国の親交を深めたいからと言ってネイル王女の求婚は受けなかった。ネイル王女は綺麗な長い金髪に紫色の瞳の美女だったが、リオンは見向きもしなかったしこう話しかけた。 「婚約などしなくても、今までどおり国交を続けましょう」 「私と婚約してくだされば、今までどおり国交を続けますわ」 「それは絶対にできません、他の解決策があるしょう」 「あらっ、魔国をカシードル国が滅ぼしてもよろしいのかしら?」 「ご冗談を、魔国がカシードル国を属国にするの間違いでしょう」 「なんですって!? 我がカシードル国を馬鹿にしているのですか!?」  あくまでネイル王女と婚約をする必要がないリオンは、そう言ってネイル王女の相手をしなかった。すると後日カシードル国が本当に攻めてきたと速報が国境の兵士たちから入った、リオンはうんざりとしたため息をついてぎゅっと俺に抱き着くと離れて言った。 「こんなに簡単に戦争になるはずがないんだけどなぁ、はぁ~。仕方がないから次期魔王の仕事をしてくる、クロ」
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