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羽村家→みつば公園
ずっと走っているけど、お兄ちゃんの姿は見えない。家から第三小学校に行くルートはいくつかあるから、もしかすると違う道を歩いているのかもしれない。でも、今から引き返していたんじゃ、間に合わないから。お兄ちゃんが学校の門を潜る前に追いつかなきゃ。ボクは小学生じゃないから、学校には入れないもんね。
「暑いなぁ」
緑の生垣が見えてきた。あれは、みつば公園だ。ちょうどいいや。ちょっとだけ、お水を飲んでいこう。
「あれっ。リキヤくんだ」
そんなに広くない公園の中に、見知った姿があった。3丁目のリキヤくんがおじいさんとお散歩に来ている。これからドンドン暑くなるから、朝のうちに出てきたんだろう。
「おう、ケンジじゃねぇか」
「リキヤくん、久しぶりだね」
ボクより一回りは大きいリキヤくんは、木陰のベンチに座るおじいさんの隣で寝そべっていたけれど、ボクに気づくと身を起こした。
「お前……なにやってんだよ」
「うん。お兄ちゃんが忘れ物しちゃって」
「……フゥン」
彼はボクと水色の袋をジロジロと見て、それからウーンと伸びをした。首に掛けたタオルで汗を拭いていたおじいさんは、気遣うような視線をリキヤくんに向ける。
「どうかしたかね、リキヤ?」
「あ? なんでもねぇよ」
素っ気ない態度で応えるけれど、照れくさそうな表情に嬉しさが滲んでいる。ふふっ。ボク、知っているんだ。リキヤくんは、おじいさんのこと大好きなんだよね。
「じゃあ、ボク、行くね! またね!」
「ああ……じゃあな」
水色の袋を確りと携えて、ボクはみつば公園をあとにした。
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