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長治郎川→第三小学校
困ったなぁ。
第三小学校に着いたけれど、校門は固く閉じられていた。人影はなく、既に授業が始まっているみたいだ。どうしよう。どうやって、この体操着を届けたらいいんだろう。
「あのー、誰かいませんかー?!」
門の柵の間から叫んでみたけれど、気づいてくれる人はいない。
「あのー、誰かぁー!」
「おやおや。キミ、こんなところまでひとりで来たのかい?」
突然、背後から声がして、ビックリして振り向いた。全身黒ずくめのおじさんが、ボクをジイッと見上げている。
「おじさん、ボクのこと、知っているの?」
身体全体を少し膨らませて静かに笑うと、おじさんは一歩踏み出した。
「ああ……知っているさ。キミ、西2丁目の羽村さん家の子だろう?」
「えっ……どうして」
おじさんはもう一歩近付いてきた。思わず後退る。ガシャ、とボクのお尻が門の柵に触れた。
「あの辺りを含めて、ここいら一帯は、オレの仲間の管轄地域なのさ」
「管轄?」
「ナワバリってことだ。それより、この門の中に入りたいのかい?」
「うん! これ、お兄ちゃんの忘れ物なんだ。届けなくちゃ、きっと困ってる……」
俯いたボクの顔を、おじさんの青みがかった黒い瞳が覗き込んだ。
「よし。付いておいで。おチビさんがひとりくらいなら通れる“抜け穴”があるんだ」
おじさんは、自信たっぷりに両腕を広げると、コンクリートの塀に沿ってピョコピョコ歩き出した。
疑っても、他に為す術はない。ボクは水色の袋を落とさないように確り咥え直すと、真っ黒い背中を追いかけた。
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