21人が本棚に入れています
本棚に追加
第三小学校→羽村家
「ねぇ、見て見て、あそこ!」
「わあっ! 可愛いー!」
「どこから入ったんだろう?」
「あれ、なんか咥えてるよ!」
「あの袋、体操着の袋じゃない?」
「ホントだ! 体操着の袋、ぶら下げている!」
「誰のだろう?」
「なんだ、なんだ、どうしたんだ?」
「センセー、ワンちゃんがグラウンドから走ってくるの!」
「誰かの体操着の袋、持ってるんだよ!」
カラスのおじさんが教えてくれたのは、グラウンドに設置されている防球ネットの破れ目だった。頭を無理矢理突っ込んで、なんとかグラウンドに侵入すると、ボクは一目散に校舎を目指した。学校中が、忘れ物を届けに来たボクの姿に大騒ぎになっていたらしいんだけど……そんなのボク、知らないよ。
それから間もなく夏休みになって、約束通り、お兄ちゃんはいっぱい遊んでくれた。お兄ちゃんの友達も毎日入れ替わり立ち替わりやって来て、ちょっと有名になったボクを撫でたり、遊んでくれた。
でもね、ボクが1番嬉しかったのは――。
「あれ以来、健太はすっかり忘れ物をしなくなったわねぇ。ケンジのお陰だわ」
「だって、もうケンジにお使いさせられないよぉ」
「そうか、そうか。成長したんだなぁ、健太」
ずっとお兄ちゃんとふたりだけだったボクたちのお散歩に、パパとママが付いてくるようになったんだ。毎日ではないけれど、家族みんなでお喋りしながら、ゆっくりとご近所を歩くんだ。みつば公園とかさわやか商店街とか、長治郎川の堤防とか……他にも色んなところを。お兄ちゃんはニコニコ。ボクも尻尾をパタパタ。
あの日、ボクが届けた水色の袋に入っていたのは、お兄ちゃんの体操着だけじゃなかったのかもね?
【了】
最初のコメントを投稿しよう!