玄関→羽村家の前

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玄関→羽村家の前

「行ってきまーす!!」  元気な声に続いて、ドタバタ忙しない足音が玄関に向かって廊下を遠ざかり、バタンとドアが閉じた。あと5分早く起きればいいのに、健太(けんた)兄ちゃんは、いつも遅刻ギリギリの時間に家を出るんだ。 「あーあ……まただよ」  玄関の上がり台にポツン。水色の袋が置き去りにされていた。  『2年1組 はむら けんた』  袋に縫い付けられた白い布の中に、黒マジックでくっきり書いてある、お兄ちゃんのクラスと名前。この中には、確か体操着が入っている。忘れちゃったら、お兄ちゃん困るよね。先生に怒られちゃうんでしょ? 「もー、しようがないなぁ」  パパは疾っくに会社に行っちゃったし、ママもキッチンで朝食の後片づけに忙しい。だから、ここはボクの出番だ。  水色の袋をぶら下げて、外に出る。  眩しい日差し。もわあっと蒸し暑く、肌に貼り付く重い空気。セミがミンミン騒がしい。  ようし。全速力で追いかけたら、お兄ちゃんに追いつくかなぁ。
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