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「先生のご先祖は、この秋葉の人たちにひどいことをしたんです。ずっと昔のことですが、その血が流れる先生には、それを償う責任があると思うんです」 「先祖? 償い? 意味が解らん。俺が何かしたのか?」 「先生じゃありません。先生のご先祖の五辻斉彬が悪いんです」 「な、な、なりあきらぁ? 知らないよ、そんな人。その人と私に何の関係があるんだ」  騒ぎに気付いた英子たちも稽古を中断して集まってきました。 「小春? あなた先生に何をしたの? 先生、大丈夫ですか」  英子の質問には答えず、小春は五辻先生に近づきました。 「今度の発表会で、ご先祖の罪を洗いざらい明かして、市民の皆さんの前で謝ってください」 「先祖の罪? いったい何を言ってるんだ? 高岡、お前がお母さんのことで落ち込んでいることはみな知っている。けれど、今日のお前はおかしいぞ。何を言っているのかさっぱりわからん」    我慢に我慢を重ねて口を閉じていた七緒でしたが、どうやら堪忍袋の緒が切れたようです。 『小春、もうよい。もはやこやつを成敗するのみじゃ!』 『ダメ! 待って!』  七緒に言い返した小春が全員の顔を見回しました。 「先生、少し長くなるけど聞いてください。みんなも一緒に聞いてくれる?」  小春は今までのことを話しました。七緒のことはさすがに信じてもらえないので省きましたが、その目の真剣さで真実を話しているのだということは伝わったようです。  演劇部員の一人が、ボソッと言いました。 「私は先祖代々この辺りに住んでいた訳じゃないから、ピンとこないな」  他の部員たちも言います。 「私も同じ。だって親はもともと北海道だし」  ざわざわと自分の感想を口にする部員たち。  五辻も声を出しました。 「高岡、お前の言ってることはわからんでもない。だがそれは今生きている我々が背負うべきことなのか? 例えば大昔にあった戦争で敵同士だった人たちの子孫は、いつまでもいがみ合わなければならないのか? 過去ではなく、未来へ向けて歩むのが正しい姿ではないか?」  あながち間違いではない五辻の言い分に、小春は言い返せませんでした。  あれほど怒りに塗れていた七緒も、思うところがあったのか黙っています。  その時英子が口を開きました。 「小春、七緒姫の無念は五辻先生を殺したら晴れるものかしら」 「こ、殺すって、おい!」  後ずさる五辻に小春が言います。 「先生、ごめんなさい。そうじゃありません。七緒姫は一時の感情が高ぶってそう思ったとしても、決してそんなことをするような人ではないですよ。ただ五辻の子孫に、心から詫びてほしいんだと思います」 「そうかもしれない。でも、私はいったい誰に詫びればいいのだろう。七緒姫にか? ご先祖が間違ってました。すみません? なんと言うか……釈然としないが」 「なら、この地に眠るお百姓さんたちにならどうです?」 「それなら……詫びると言うか、安らかに眠ってくださいという気持ちには当然なれるが、その時に処刑された人たちの子孫を探し出して頭を下げろって?」  英子が一歩前に出ました。 「顔も知らない人たちだけれど、確かに犠牲者はいたってことだよね? 今この地に住んでいる私たちは、謝罪というより感謝を捧げるべきなのかもしれないよ? それなら私たちもできるんじゃないかな」  小春もその言葉に同意して頷きました。 「感謝……そうだよね。その人たちが守ってきた大地に住んでいるのだもの……発表会の最後にみんなで黙祷するのはどうかな」  そう言った小春の頭に七緒の声が響きました。
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