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「高岡ってあんなに慌て者だったか? 市長に言ったって、何のことやらって言われるのが落ちだぞ。そもそも会えるわけないだろうに」 「でも先生、黙祷だけでも必ずやりましょうね。3分くらいなら延長できるんでしょう?」  五辻先生が頷きます。 「ああ、そうだな。高岡の演劇の話は別にしても、この地に昔何があったかを知らせることは悪いことではない」  英子がパンパンと手を叩きながら声を出しました。 「さあ! 私たちにも時間はないよ。稽古に戻ろう!」  部員たちが再び稽古に集中し始めたころ、蒲郡市役所に飛び込んだ小春は、受付の職員と言い合っていました。 「どうして? 市民の声を聴くのが市長でしょ?」 「ですから、4階の広聴課でお話をお伺いいたしますので、そちらに話してください」 「こうちょうかって、校長先生じゃなくて市長だって言ってるじゃない」 「いやだから『校長か?』じゃなくて『広聴課』ですってば」  職員とのやり取りを聞いていた七緒が小春に言いました。 『なあ小春。市長というのは城主のことじゃな? だとするなら、民の陳情はそれを担当する家臣がまずは聞くものじゃ。それが道理というものじゃぞ?』 『家臣? そうなの? まあ、そうかも……』  七緒の言葉に納得した小春は受付職員に言います。 「すみません。その『こうちょう』とかが市長の家臣なんですね? 4階ですね?」  唖然とする職員に一礼し、小春はエレベーターに向かって駆け出しました。 「えっと……市長の家臣の方をお願いします」  怪訝な顔で対応する秘書広聴課の職員に、事情を話す小春。  黙って聞いていた職員が困ったように言いました。 「なるほど。演劇発表会の時間を延長して欲しいという事ですね? それでしたら発表会の開催については教育委員会が担当しております。そちらに話していただけますか?」 「わかんない人だなぁ。市長に会わせてって言ってるの。偉い人に言わないと意味ないの。そうやって市民を盥回しにするから役所はダメなんだって八百屋のおばさんが言ってたよ?」 「そう言われましても……」  その時小春の背後から声がかかりました。 「どうしました?」  職員が驚いた顔で姿勢を正します。 「お帰りなさいませ」  小春が振り向いた先には、凛とした中年女性が立っています。 「あ、おばさん。もしかしてこの人の上司かなんかですか? 私、市長さんに大事な話があるんです。会わせてもらえませんか?」 「いいですよ? ちょうど今なら時間がありますから」 「やったぁ! さすがおばさん! やっと話がわかる人に会えたよ」  職員が驚いた顔で声を出しました。
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