第2話

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「亜理紗のダンジョンって、もふもふ系の魔物っている?」  親友が答えにくい話題を振ってきた。  彼女には持っていないと言えずに持っていると、ついつい嘘をつき続けている。 「あ、うん、白銀兎だった、かな?」  動画で人気配信者が紹介していたウサギの魔物を口にしてみた。これくらいなら他愛のない話で終わると思っていたのに……。 「マジかよ、亜理紗? 白銀兎って相当レアだぜ」  しまった。  可愛かったから、ついつい名前を覚えていた魔物の名を口にしてしまった。いつも絡んでくるクラスの陽キャな男子が大きな声で話を広めてしまった。 「じゃあ、今週の週末にクラスのグループ内に配信しようぜ」  クラスのグループ配信は自分で配信をしたことがない。ほとんどの人が個人ダンジョンの配信ばかりなので、これまで配信をしたことがなかった。 「う、うーん、どうしよう……」 「いつもの強気はどうしたよ? さては亜理紗おまえ……」 「白銀兎いるし! ただレアな魔物を見せたくなかっただけだから!」  思わず言い返してしまったがどうしよう? ダンジョンなんて持ってないし、父親と最近あんまり口を利いていないし、母親の方は勉強に関係のない相談をしたら激怒しそうで怖い。その日の夕方、母親が夜勤前の身支度が忙しそうで話せなかった。  頼れるのは、父親のみ。  父の名前は一郎。清掃会社で働いていて、これといってなんの特徴もないパッとしない父親。小学6年生あたりまですごくパパっ子だったが、クラスの男子にバカにされて、それから父親を避けるようになった。  あんなに大きく見えた父親のゴツゴツとした手は、クラスの男子とあんまり変わらない。距離を取って初めて親って意外と小さいんだなって、客観的に両親をみることができた。  クラスの女子が愚痴をこぼす父親像は脚色しているのか、かなり酷い。だがウチの父親はそこまで鬱陶しさはなく、向こうから距離を取って見守っている感じがなんとなくする。父親を嫌っているわけじゃなく今はそっとしておいて欲しいという気持ちを父親は察してくれているようだ。  近くのコンビニへビールを買いに行くと言って外に出た父が1時間近くして帰ってきた。母が週末の大型スーパーで買いだめすればいいのにというが、買いだめしたら太るから、という理由で毎回、断るという矛盾を毎週繰り返している。  いちばん最寄りのコンビニは歩いて5分もかからない。母には言えないようなことをしていないかと心配になるが、この父親に限ってはモテるとは思えないので大丈夫だと思うが……。家庭崩壊に繋がることだけは勘弁してほしい。だが今はそれより自分のことが優先度が高い。意を決して父親へ伝えた。 「個人ダンジョン?」 「うん、友だちと約束しちゃって……」  詳しい経緯は語らずにダメ元で白銀兎のいるダンジョンをせがんでみた。父親はゲームもしないし、ダンジョンを持ってすらいない。白銀兎のことを話してもサッパリだろう。  そう思っていたのに……。 「白銀兎だったら、Cナ20000番台なら確実にいるね」 「え? お父さん、なんでそんなに詳しいの?」 「あ……いや、職場の後輩の佐々木が嵌まってて毎日、聞いてて覚えたんだよ、うん!」  へー、佐々木さんが。  父、一郎の会社の後輩でたまにウチへお邪魔する。酔ってもいなさそうなのにピッタリ1時間で帰っていく不思議な人物……。  ダンジョンに詳しいようには見えなかったけど。
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