届けたいこの想い

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「遅いな」  時計を見つつ、そう独り言を漏らす。夕方四時に体育館裏の一本杉にて待ち合わせの予定だった。現在四時十分。とんでもない緊張感が襲ってきていた。まさか告白することを事前に察してバックれられたのだろうか。いや、百合はそんなタイプの人間ではない。だが、もしかしたら何か事故でも起きて来られないかもしれない。後五分待って来なかったら探しに行こう。そう考えていた時だった。 「遅れてごめんね。猛君」  遠くで大声を出しながら百合が走り寄ってきた。俺は少し赤面する。危惧していたことが何もなかったのはよかったが、そんなに大声を出せば誰かに見られるかもしれないと思ったからだ。幸いにも元から人気の少ないこの場所に誰かがいるはずもなく、間違いなく俺達二人だけだった。少し安心して胸を撫でおろす。とりあえず第一関門はクリアだ。 「で、話って何?」  荒い呼吸を押さえて百合は言う。いきなり核心をつく言葉に俺は喉を詰まらす。事前に反復練習はしてきたが、いざ実戦となるとうまくいかなくなるものだ。しどろもどろどうでもいい言葉を発すると律儀にも百合はそれに合わせてきてくれた。 「そうだよねー。私もあの授業全然わからなかった」  けらけらと笑う百合はとても可愛かった。俺は高鳴る鼓動を抑えながらなんとか本題に話題を戻そうとするがどうにもうまくいかない。時間だけが無駄に過ぎていく。そうこうしていると、百合はスマホを取り出し何か操作をしだした。するとすまなさそうにこう言った。 「ごめん!お母さんと今日買い物行く約束あったの忘れてたの。用件は今度でいい?」  無念にも頷かざるを得なかった。
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