2人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんにちは。お邪魔します」
「お、おう。いらっしゃい」
百合は丁寧に脱いだ靴を揃えると、玄関をあがってきた。久方振りに見る百合の私服は小学生の頃に着ていたものと比べると大分大人びていた。こっちはよれよれのTシャツにジーンズだ。何となく気後れしてしまう。いかんいかんこんなところで負けるわけにはいかない。彼女を二階の自室に案内すると、台所からジュースとお菓子を取り揃えて階段をあがった。その間にも反復練習は欠かさない。部屋のドアを開けたらもう後戻りは出来ないのだ。俺は意を決して自室に戻った。
「ぐあっ」
思わず絶句してしまった。百合は手持無沙汰だったのだろう、本棚に入っていた中学の卒業アルバムを見ていた。まぁ普通に考えればそれくらいたいした事ではない。だが、俺の場合は違った。黒歴史と言えばいいのだろうか。アルバムの最終ページにある書き込み欄に百合への想いを書いた言葉がつらつらと書き綴ってあったのである。
やばい、そう思った俺は全力で百合に駆け寄るとアルバムを取り上げようとした。
「あっ!」
急ぎすぎたのか、足をもつれさせた俺はベッドに腰かけていた百合を押し倒す形でずっこけた。目の前に百合がいた。突然のその状況に俺は何も考えられなくなり、その綺麗な唇に自らの顔を押し付けてしまっていた。
パァン!
柔らかい。そう思った瞬間に激しい痛みが顔面を襲う。その衝撃に俺はひっくり返り、ベッドから転げ落ちてしこたま頭部を打ち付けた。
「最低」
百合は涙ぐんだような声でそう言い放つと、部屋を急いで出ていった。
やっちまった。もう終わりだ。
俺は自分のした事を反芻しながら、意識を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!