届けたいこの想い

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 そんな折、思いもかけぬ所から機会が訪れた。授業の一つでグループ発表会が企画されたのだが、その面子になんと百合が入ってきたのである。なんたる幸運か、少し小躍りしたくなる偶然に喜んだ。放課後に報告内容の話し合いが持たれ、そこでようやく面と向かって百合に会えた。相談の中身なぞ頭に入ってこない。どうやってこの無為な時間が終わったら謝罪しようかそれしか考えられない。どんどん時は過ぎてゆく。班の連中には適当な相槌を打って頭脳は全く違う事でフル稼働している。だが、どれだけ頭を捻っても百点満点の解答は出てこなかった。結局真っすぐストレートで行くしかない、と結論づけるしかなかった。 「じゃ、これでまとめるから明日は皆よろしくね」  班長の女子がそう言って荷物をまとめだした。それにつられて残りの面々も帰り支度を始める。俺はさり気なく百合と片付けるタイミングを合わせ、帰りの間を合わせた。皆は挨拶をしながら次々と帰宅してゆく。百合は途中スマホを見ていたので少し遅い。俺はその間にも震える心を押さえて、全員帰宅するのを待った。 「あのさ、百合。この後時間ある?」  ようやく俺達以外がいなくなると、そう声をかけた。 「……」  スマホを眺めている百合から返事はない。聞こえないフリをしているのかもしれない。俺は彼女から声が返ってくるまで辛抱強く待った。やがて、スマホをポケットにしまった百合は諦めたように俺を見た。 「いいけど、何か用?」  冷たい感じがする声音だった。まぁ仕方ない。やったことがやったことだ。 「うん、ちょっとここじゃアレだから、体育館裏の一本杉でいいかな?」  百合は少し考えたような素振りを見せたが、静かに頭を縦に振った。 「それじゃ先に行ってるから。また後で」  俺はそう言うと気まずい教室から離れた。
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