隣人

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「隣に引っ越ししました、中西です「よろしくお願いします」」 後半は夫婦揃って頭を下げる中西さんは、標準語のようで音が関西だね。 「秋山です。こちらこそ、よろしくお願いします」 と言う夫に合わせて頭を下げると 「秋山千愛でーす」 と娘がニコニコと女の子にだけ向かって言っている。さっきまでにこやかだった女の子が少し固まったのは、千愛の勢いに驚いたかしら? 「ちえちゃん、こんにちは。亜優です。亜優…こんにちは、は?」 「………こんにちは…」 可愛い…千愛をガン見したままお辞儀するから、へっぴり腰がなんとも可愛い。 「よろしければお受け取りください」 奥さんがあゆちゃんの手を離して『ご挨拶.中西』と熨斗のかかったお米を差し出すと、千愛が手を出す。 「ちえちゃん、よろしくお願いします」 千愛が受け取ってしまったけれど 「ご丁寧にありがとうございます。あゆちゃんは幼稚園?」 お礼を言ってから聞いてみる。 「はい、アオハル幼稚園に通うことになってます。こう見えて、本人はちょっと…幼稚園の話はピリピリなんです」 「アオハル幼稚園、千愛も行ってたよ~」 「そうそう。だからあゆちゃん、大丈夫だよ」 夫の理由にならない大丈夫に、中西夫妻は良かったと顔を見合わせている。 「大丈夫じゃないのは、千愛だぞ~」 「どーして、パパ?」 「ゲームで叫ぶのも、ママに叱られて泣くのも、あゆちゃんに聞こえる」 「やばーい。けど、あゆちゃんも泣くと思うからいいや」 お口が達者になった7歳の娘と、会社員の夫、専業主婦の私…可もなく不可もなし…特筆することもない極普通の家族だ。
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