1118人が本棚に入れています
本棚に追加
夫の言っていた通り、お隣の音と声は場合によって聞こえるくらいの家だ。
車1台が置ける駐車場のある建売住宅は、建ぺい率いっぱいに建っている。互いに面する壁には、玄関や階段の小さな窓がある。もちろんプライバシーに配慮して、窓の位置はズレているから窓から見えるのは隣の外壁だけれど、音は漏れる。
中西さんの前に住んでいた人が大きな声で電話で話すのは、うちの玄関でよく聞こえていた。
うちの注意しないといけないのは千愛の声と階段の駆け降りだけど、中西さんにも子どもがいるから少し安心だわ。
数日後から、朝の決まった時間に亜優ちゃんがぐずる声が聞こえてくるようになった。
「亜優〜行くで。帰ったらたこ焼き、焼き焼きする?」
とか
「今日はママのビュンビュン自転車でいこか」
とか
「帰ったらばぁばに亜優が電話してな」
とか…玄関のドアを開けてから言っているのでよく聞こえてくる。奥さんは家族には関西弁のようね。今日も
「亜優、靴、反対…あははははっ…ソレ…わざとやん。けいちゃんが待ってはるよー」
と全くイライラを感じさせず、余裕のある奥さんは偉いわ…と、すでに夫は出勤、娘は小学校へ登校した静かな家の下駄箱の上を、使い捨てダスターで撫でながら思う。
でもそれも10日もすれば
「亜優、待ってっ、まだ出たらアカン」
「まーまーがーおーそーいー」
と元気な声がする。子どもが慣れるのは早いわね…と…奥さんは専業主婦?
詳しい話はしたことがないけれど…と朝だけ声の聞こえる隣人が少し気になった。
最初のコメントを投稿しよう!