狼狽

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狼狽

どれだけ乱れたかなんて自分では分からない…ただ、我を忘れる快楽というのがこの世にあることだけは分かった。 シャワーを浴びてから、また備え付けの基礎化粧品しかない当たり前のことにガッカリして着替えるまで、コウさんも私もあまり話さなかった。 「ありがとう、フウコさん。行こうか…ここ、建物は先に出て駅に向かえばいい。一緒じゃない方がいいだろ?」 その心遣いに頷くだけで、私は駅に向かった。日焼け止めもない顔を下に向けて歩き、改札を通ってホームで電車の時間を確認すると 「ぇ………ぅそっ……」 到着電車が16:08分? もう千愛が帰ってる時間… 慌ててバッグからスマホを取り出し電源を入れる。あぁ…家の前で待たせてしまってるよね…と後悔しながら… 着信のお知らせが来た…知らない番号から15:45と15:49の2回、そして16時ちょうどに夫から… 知らない番号はいいとして、夫へ折り返すのは電車を降りてからになるな…もう電車が来る。気持ちはどれだけ焦っても、電車は定刻ピッタリにゆっくりとドアの開閉を行う。ひと駅で電車を飛び出し、走って改札を抜けると、夫へ電話を掛けながら家へ向かって歩いた。 「あ、パパ?電話なに…」 “いまどこ?” 「へっ…」 “いまどこにいる?” 「……どうして?」 “家に入れない千愛を中西さんが見かけて、子どもを勝手に預かるのも悪いかと思って千愛の連絡帳にあるママの電話に2度掛けてくれた…” 知らない番号は中西さんから…嫌な汗でスマホを落としそうだ。
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