狼狽

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あのとき…千愛の言葉にチラッと私を見た中西さんは何を思ったのだろう。同類と勘づいて、うまくやらないと…と笑っていたのだろうか… そんなことを考える夜…一人で眠ることには安心していた。 夫が出張から帰るのは明日の金曜日だ。 金曜日の朝にも千愛は不機嫌だった。今日は千愛の好きなハンバーグを作ろうかな…夫の好きなポテトサラダと。 こうして平凡でいいんだ…私の知った快楽は夫と得るべきもの。千愛だって…あのセリフは鋭さがあった…家族のことをよく見ているのだ。これまでと同じルーティン生活で我慢しよう。 あれ…?我慢? これまで私は我慢していたんだっけ? 洗濯機の前で洗濯物を持ったまま立ちすくむ。そして洗面台のミラーの中の自分と向き合った。 我慢はしていなかった。けれども、既婚者合コンという別世界を見たとき、数分間で日常をリセットする人がいること知った。そして同じママでも、中西さんのような人がいることも… 自分の知らないことを知って、ケイコさんが自由に見えたり、中西さんがいい思いをしているように見えたり…私もという願望が芽生えたのかもしれない。 でも今は蓋をして…千愛が優先だわ。 今週は火曜と木曜に出掛けてしまい、水曜日はフラワーアレンジメント教室だったから、掃除をしていない。夫もいなかったから。午前中は洗濯と掃除で終わり、午後スーパーへ買い物に行って帰って来ると、もう夫が家にいた。 「おかえりなさい。早かったね」 「そう。途中まで千愛のお迎えに行ってくる」 「あ……うん、いってらっしゃい」 千愛と夫は仲がいい。だから…あのとき“パパもママのお出かけは知ってる”と言った私の言葉に、千愛が納得したのだと思う。大丈夫…直前の電話で私のお出かけは伝えていたもの。
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