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中西さんは重そうに亜優ちゃんを抱っこして出て来た。
「おねむで…もう寝そうです…」
「邪魔してすみません」
そう言った夫に
「大丈夫ですよ…寝る時は寝るねん…みたいな子なんで。ここまでがグズグズ言うんですけど、もうジェットスターに乗ったって寝ます」
中西さんは小声ながら軽快に応えた。
「昨日は千愛がお世話になりました。連絡も何度もいただいて、本当にご迷惑をお掛けしました」
「私の不注意で…すみません」
「いえいえ、亜優が遊んでもらって喜んでたんで、うちは全然問題ないです。またいつでも…というくらい大丈夫ですよ」
「これ、今日出張から帰ったんで、ちょっとお土産で…持てますか…玄関に置きましょうか?」
「すみません、気を遣わせてしまって…ありがとうございます。はい…玄関…すみません」
中西さんを通り過ぎて玄関に紙袋を置いた夫は、すぐに出て来ると
「もう寝てる」
と亜優ちゃんの顔を覗く。
「はい…重さがそう言ってます」
「寝たら重いですよね。ああ…ご主人と先日帰りに一緒になったんですよ。先週だったかな」
「あ、聞きました。先週ですね。秋山さんと一緒に帰って来たって言ってました」
私は知らない…
「一度一緒に食事でもって言ってたんですよ。昨日のこともあって、明日の夕食をうちでどうかとさっき連絡させてもらってます」
「あ…それは知らなかったですけど、連絡先の交換は聞いてました…はい…」
私は知らない…
「今、仕事中だからね。ご主人と相談して、良かったら明日一緒に食事にしましょう」
相談するとだけ言った中西さんのところから帰るとすぐ
「夕食に誘ったってこと?私、知らないんだけど?」
と夫に聞いてみる。すると彼は慌てもせずに応えた。
「同年代のお隣さんで、仕事の話も、他の話も楽しい人だから誘った。千愛だって、いつ昨日のようなことがあるかもしれない…」
「そこは私が気をつけるわ」
「うん。でも電車が止まった、となればそれだけで千愛が数時間置き去りの可能性があるんだ。悪い人じゃないんだから仲良くすればいいと思って。食事の準備が面倒ならしなくていい。俺が買ってくるから、何もしなくていいよ。おーーい、千愛。荷物どんな感じだ?」
「出来たよーたぶん」
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