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顚落
中西さんは、冷えたビールと赤玉ねぎと黄色いパプリカのマリネを作って持って来た。
話をするうちに、秋山さん、中西さんが二人ずつで分かりづらいからと、奥さんは名前を呼ぶことになる。
「風子さん、お料理上手なんですねぇ。ミートローフ…作ったことないです」
「ハンバーグと一緒よ」
「直美、ハンバーグは得意やん。パンッ、パンッ…て肉のキャッチボールのええ音させて」
「あははっ…一投で空気抜けるわ、っていう力でな…バレてた?」
「ちょっとだけな。秋山さん、料理します?」
「俺はしないなぁ…鍋だけは買い物からするけど」
「「鍋奉行?」」
息ぴったりの中西夫妻は座る距離も自然な感じに近い。ベタベタするわけじゃないけれど無意識に二人が寄り添っている様子が、今日の私には普段以上に嫉妬心を煽られるようで…目をそらしてクイッとワインを飲んだ。
夫と…今朝からもピリッとした空気から脱していないのよ、こっちは。それなのに…直美さんはいつもにこやかで…ズルい…どこでもいい顔して、いい思いしてうまく行くなんてズルいわ。
「直美さんも、中西さんと同じ商社勤めだったって?」
「そうです、こっちの大学から就職して。主人の関西勤務を機に辞めましたけど」
「もったいないね。続けられたんじゃない?」
なに…夫まで直美さんに興味を持ったの?ワインを飲む手が止まらない。
「そうなんですけど、私は付録のような転勤になるから…子どもも欲しかったし、辞めました」
「なるほどね。中西さんは今回本社に戻って、出世コースだね。商社の人からそんな風に聞いたことあるよ?」
「どうかなぁ…俺、海外勤務をしてないんですよね」
「それも関係あるのか…海外勤務…亜優ちゃんもいて、どう?」
「学校とか考えると、国によりますね。どこにしたって直美に負担はかかるんですけど…」
「私はどこでも生きていける気はするから、どーんと行くよ?」
「ええヨメやぁ〜」
中西さんが泣き真似をして、夫は拍手している。図太いから、どこでも生きていけるんじゃないの?
「どこでもで思い出したけど…直美さん…私…見ちゃったのよ…」
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