顚落

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「この前は家族でうちに来てましたよ?俺も直美も実家が関西なんで、こっちの従姉妹だとか、仲いい同期とは家族ぐるみで付き合ってもらって、大きな安心材料になってるんですけど…」 「そうなんです。仕事も亜優の幼稚園の都合で行ける時だけの短時間にしてもらって……ホテルって言われてるのが気になるけど…風子さんの言ってるホテルってラブホですか?ふたつ並んだとこ」 半分放心の私が頷くと 「あそこを通り過ぎたら踏切があるの、知ってます?それを渡ってすぐに銀行があるんです。そこへ入金とか両替に行くのも私が多いかな…普通に通り道にラブホがある感じですね」 そう言った直美さんが 「全然気づいていませんでした…喫茶店で着替える時間がもったいないから、私はエプロンだけして裏方なんで…風子さんに会わなかったし」 と続けた。 「昔、直美と知り合った頃、あの辺に直美が住んでたんで“庭”です」 「あははっ…何もない庭です、はい」 中西夫妻はこれでこの話は終わりという感じだったけれど、夫はそうはいかないようだ。 「で?」 それだけで、中西夫妻のにこやかさが消えて、二人は全く同じタイミングと動作でビールを一口飲んだ。 「秋山さん…俺たち帰った方が良さそうですね…」 「いや…悪いけど、このまま居てもらった方がいい。夫婦だけで“言った、言わない”の後味の悪さは避けたいから」 「分かりました…まあ…聞いておいた方が、明日から顔を合わせづらいってことがないかも…ってことで…」 「うん、ホント悪いけど。直美さんも…あらぬ疑いをまず謝ります。ごめん…申し訳ない」 「いえいえいえ…今まで知らなかったですし、実害もゼロですから…お気になさらず…はい…」 「……本当に失礼なことを…すみませんでした…ビール出すわ…」 「ママ、立たないで。自分のやった事、説明してくれるか?」 とにかく謝罪はした…でも終わりそうにない… 「………さっきパパも言ってたけど…他人のことが気になる悪い癖で…直美さんの行動を追ってしまった…既婚者合コンというのも…ごめんなさい」 「それだけで終わらず、火曜と木曜はホテルに行った…しかも木曜日は時間も忘れて…」 夫の言葉に息をのんだのは私だけでなく、直美さんが両手で口元を押さえ、中西さんは額を撫でた。
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