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現場
ゴールデンウィークには近場の一泊旅行のあと、私と夫の実家へと行く。ここ数年の変わらないスタイルだ。
「ママ、第3週に出張入るかも」
「どこ?」
「北陸」
「分かった」
夫とも家族のルーティンが出来上り、決まり切った毎日。それに不満があるわけではない。
けれど…
「直美、そんなん俺がするって、この前も言うたやん」
「ハイ…ハルくん…どーもスミマセン」
「もう一回言うよ?直美は女の子。わかる?」
「はい……もう36ですけど…」
「36でも、俺より年上でも、女の子やん。わかる?」
「うん…はい…わかるからハルくん怒らんといて…」
「ん…ちゃんと俺に甘えてな」
…………きっと亜優ちゃんのいる部屋じゃなく、階段のところで話をしている中西夫妻の会話を、お互いに開けた小窓越しにわざわざ立ち止まって聞いてしまった夜…
私の中の何かが揺らいだ。
私よりずいぶん若いと思っていた中西さんの奥さんが36歳?ご主人が年下?その年下のご主人に大切にされている感満載の日常に…彼女は何処へ行くのだろう…
これまでに聞けないこともなかったかもしれない。でも、彼女自らが話さないことを聞くのもどうかと…以前千愛の幼稚園のママ友と、どこまで踏み込んだ付き合いなのか…という点で失敗したことが脳裏を過る。私の興味は趣味の悪い詮索だと、ママ友や夫に非難されたことがあるのだ。
それでもまた…中西さんのことが気になってしょうがなくなってしまった。
ついに……人の尾行なんて………そう思いつつ、ある平日の朝、中西さんのあとをつけた。
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