ろく

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ろく

夏休みも中盤へと差し掛かり、茹だるような暑さの8月がもうすぐ終わろうとしている。 実はこの約1ヶ月間、深月くんとは会えていなかったりする。 それはなぜかと言うと、大学3年生の夏休みということもあり、遊んでばかりもいられない。ということで、めぼしい企業のインターンへとせっせと通っていたのである。 それにプラスして8月はバイト先の子が2人も辞めてしまった関係で鬼のようにシフトを入れられていた。ので、あたしの時間がまあ空かない。やっとあたしの時間が空いたかと思えば今度は深月くんの予定が入っていたりとなかなか都合が合わず、気づけば8月が終わろうとしていた。 でも、まさかこんなに会えないなんて! 主にあたしの方が忙しくて、深月くんからの嬉しいお誘いを何度泣く泣く断ったことか、、、。 そんな今日も今日とて、バイトへと向かっているバイトガチ勢(不本意)のあたし。 場所は都内某所にある洋風居酒屋だ。 広い店内に、カウンター席からソファ席まであり、飲み放題メニューも豊富なので大学生から社会人まで幅広い年代に人気のダイニングバーだ。 制服へと着替え、出勤しているスタッフと挨拶を交わしながらカウンター内へと入る。 「お、ゆっきーおつかれい!」 辞めたバイトの子の代わりに最近入った佐野力(さのちから)があたしに挨拶をする。 今日も愛くるしいきゅるきゅるフェイスにモカブラウンのパーマのかかった髪がとても似合っている。 「おつかれ、(ちから)。」 そう挨拶すれば 「おい、りっきーって呼べって何回も言ってんじゃん!」 と、なにやらぷりぷり怒り出す。 「え、だって名前ちからじゃん。」 「俺はこの名前嫌なの!こんなにキューティーフェイスなのに力なんて名前ありえない!」 「え〜…、やだよ、ゆっきーにりっきーってなんか売れない芸人みたいだし。」 何故かあたしのことをゆっきーと呼ぶ力。 力は別の読み方で"りき"とも読むのでりっきーって呼んでくれよな!と初日に挨拶されたのを思い出す。 お互いあだ名で呼び合っているところを一応想像してみるが、うん、やっぱ無しだな。と即却下する。 「ひでぇ。ゆっきーのバカヤロウ。」 と、なにやらいじけているが無視だ。
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