ろく

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「雪乃ちゃんのバイトが終わるの、店の前で待ってたんだけど気づかなかった?」 優しい顔つきで、あたしを見つめる深月くん。 バイトの際は裏口から出入りしていたので、どうやらそこですれ違ってしまっていたようだった。 「え?そうだったの?…ごめん、裏口から出たから気づかなかった。言ってくれたらよかったのに。」 申し訳なさそうに、そう告げれば 「ごめんね、ここのところずっと会えてなかったし、雪乃ちゃんの顔見たら我慢できなくて、もう勝手に待ってようかなって思ってさ。」 と、少し照れくさそうにはにかんだ笑顔で見つめられ、それにあたしの胸がキュンっと高鳴る。 な、なんだそれ、なんかそれだとあたしにめちゃくちゃ会いたかったみたいに聞こえるんですけど。 こんなの、期待するなって言う方が無理でしょ、、、。 「そ、そっか。あたしも、会いたかったから待っててくれて嬉しい。」 ちらり、深月くんの顔色を伺うようにそう囁いた。 そんなあたしの手をギュッと握りしめ 「ね、雪乃ちゃん。今日うちに連れて帰っちゃ、だめ?」 小首を傾げてあたしの返答を伺うようなその視線の中に少しの情欲がこもっているよう気がした。 「…、いいよ、あたしもまだ一緒にいたい。」 もうこれ以上我慢できなくて、そんなセリフを口にする。 その言葉に、掴んでいたあたしの手を引っ張ると、「あんまり可愛い事言わないで、我慢できなくなるから。」 と、耳元でそっと囁かれ、顔に熱が集中する。 依然繋がれたままの手を引かれ、深月くんの家までの道のりを碌に会話することもなく、ふたりでただ一緒に帰った。
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