676人が本棚に入れています
本棚に追加
屋外へと出た瞬間、むわっとした熱気が体を包み込む。夏の容赦ない日差しが照りつけ、時折り吹く風はなんだか暖かい。この暑さではリフレッシュどころじゃないな。と早急に予定を取りやめる。
また戻るのも面倒くさいし、今日はもう帰ってしまおう。
バイトまでの時間をテスト勉強しながら潰していただけだし。それがちょっと早まっただけのことだ。なにより今はひとりになりたい。
そう思い、足を進める。
しかし、今日はどうやら厄日らしい。
これまで大学に通っている間に一度も出会ったことがなかったというのに、今日という日に出会うのか。
あたしの進行方向の30mくらい先、確かではないが、そこから深月くんと思われる人物と、背格好的に女の子と思われる人物が一緒にこちらへと向かって歩いてくる。
え、気まず。一瞬引き返そうかと考えやめる。
あたしが避けなきゃいけない理由などない。
もしあるとするならば、それはあたしの弱い心のせいだ。別に普通にすれ違えばいいだけじゃん、なんなら笑顔で挨拶までしてやろう。そう考えながら歩みを進める。
目線はとりあえず手元のスマホへと落とした、なんてことないふりをして歩みを進めるが、内心ドキドキと胸の鼓動が早くなるのを感じた。
歩き始めてほんの数10秒、「あ、やっぱり雪乃ちゃんだ」と、最近よく聞くようになった声に目線を上げる。
「…あ、深月くん。」
あたしを見下ろして、相変わらずの素敵な笑顔でこちらを見つめる深月くんと目が合う。
先ほどと変わらず、鼓動はドキドキとうるさかった。
「いま帰り?なんかこうやって会うの初めてだね」
と、ニコニコ話を続けてくる。
「うん、そうだね。これから帰るところだよ。」
と、返事をしながらチラリ隣に目を向けると、つい先ほどあたしのことを呼びだしておきながら勝手に帰って行った女のひとりがいた。
パチリ、目が合うと何やら勝ち誇ったような顔をされる。
瞬間、先ほども感じたイラつきが蘇った気がした。
最初のコメントを投稿しよう!