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その日俺は娘を連れて大手家電量販店でエアコンや洗濯機、掃除機など大物家電を一気に買い込んだ。家電の買い替え時期は重なるというが本当だ。とうとうこの時が来てしまったかとなけなしの貯金を取り崩す。
その代わりと言ってはなんだが、大量の抽選券を手に入れて娘と一緒に抽選会場へ向かう。どうせ当たるわけない…ハナからあきらめることにももう慣れっ子になってしまっていたが、娘は当てる気満々だ。抽選券は十数枚ある。一等は豪華沖縄旅行だった。
娘は期待に胸を膨らませ、ガラポン抽選器を立て続けに回していく。
案の定、ことごとくハズレの白玉が落ちてくる。
そして娘の表情は段々と険しくなっていく…
それでも最後のひとつになってもまだあきらめてはいないようだった。
「パパ、あと一回しかない…」
「じゃあ一緒に回してみようか」
娘の手を取って一緒に回してみる。どうせまた白玉だろう、俺は全く期待してはいなかった。
ガラガラ…ガラガラ……ポン――
落ちてきたのはなんと、金の玉だった!
カランカランカラン♫
カランカランカラン♫
店内に祝福のベルが鳴り響く。
「大当たり〜!大当たり〜!おめでとうごさま〜す」
数人のスタッフが盛大に拍手をしてくれてなんだか気恥ずかしい。娘は感激のあまり目をパチクリさせて直立不動の状態だ。スタッフに促されるがまま沖縄旅行の説明を受けていると、
「すみません、あと一回抽選できます。もう一枚あったのをカウントし忘れてました」と別のスタッフが謝ってきた。
「いや一等が当たったのでもういいですよ」そう言って断ろうとすると、
「パパ、あと一回やりたい!」娘がどうしてもやりたそうにするから、スタッフが娘をガラポン抽選器の方へと案内してくれた。
娘はスタッフに任せて引き続き旅行の説明を聞いていると、なにやら騒がしい音がする。
カランカランカラン♫
カランカランカラン♫
さっきのスタッフと娘が戻ってきて、
「娘さん、今度は二等を当てましたよ!おめでとうございま〜す」
なんと一等も二等も当ててしまうという運の強さ(二等は最新のゲーム機だった)。
「また当てたんだ!くじ運良すぎだろ。こんなこと一生の内にあと一回あるかないかだね」
「パパ、きっとあと何度でもあるよ。くじは私に任せなさ~い」
得意げな娘の姿がなんともたくましい。
―― あと一回 ―― 最後まであきらめないことの大切さを娘に教えてもらった気がして、俺は自分の汚れた人生観をガラポンした。
【完】
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