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その弾丸は、圭の前に立ち塞がった椿総理の右太腿を貫通した。
椿総理は、悲鳴を上げて、倒れた。
圭は、突進するように椿総理を抱え上げると、近くの死角になる植え込みに逃げ込んだ。
そして、自分のネクタイを外して、椿総理の被弾して出血している太腿に、強く縛って巻いた。
「どうして、こんなバカなことをっ! 総理大臣がSPを庇って負傷するなんて前代未聞だっ!」
圭は、叫ぶように言った。
椿総理も、興奮して叫んだ。
「だって仕方ないじゃないっ! 勝手に体が動いたのよっ!」
とにかく、早く椿総理を病院へ連れて行かないと、、。
しかし、犯人は政府内部の人間と内通している。
このまま、病院へ向かえば、また狙われるかもしれない、、。
圭は、苦しみながら考えた。
そうだ!
この近くには、実家の渋谷医院があるのだ!
もし、外科医である兄の生がいれば、治療してもらえる!
圭は、携帯を出して、祈るような思いで、生に電話した。
生はワンコールで出た。
「生兄さん! 圭だ! 今どこにいる?」
「えっ? 今、誠と波瑠さんと一緒に実家に戻って、父さんの身の回りのものを集めてるよ。病院に持っていこうと、、。どうしたんだ? 圭」
圭は、胸を撫で下ろして、安堵のため息をついた。
不幸中の幸いだ。
生が、今、実家に隣接する渋谷医院にいるのだ。
「生兄さん、これから椿総理を渋谷医院へ運ぶ! 総理が銃撃されて、太腿を負傷した。治療して欲しい!」
「えっ?!」
「とにかく、今から向かう! 頼む!」
生は、詳しい説明を求めなかった。
切迫した状況であることが、圭の声音から分かったからだ。
「分かった! すぐに連れてくるんだ」
圭は携帯を切ると、蹲っている椿総理に言った。
「これから私の実家の病院へ向かいます!」
そう告げると、圭は椿総理を抱え上げた。
被弾していた左肩に激痛が走ったが、今はそれどころではない。
抱き上げられた椿総理が、焦って言った。
「渋谷君、大丈夫だから! 渋谷君の方が重症よ!」
「黙ってください!」
圭は、有無を言わさず、椿総理を抱き上げたまま、犯人から死角になるルートを通り、停めてあった車に向かった。
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