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圭が、命のマンションで東城と話している頃、渋谷家の実家では、生と婚約者の佳世が真剣に語り合っていた。
そこには、波瑠も同席していた。
渋谷課長は、県庁の仕事に行ってしまっていたからだ。
生は、大学病院の仕事を、有給休暇を取って休んでいた。
大学を辞める準備と、国境なき医師団へ入る用意もしていたのだ。
そんな生に、佳世は、泣きながら語りかけていた。
「生さん、、。本当に死んでしまうかもしれないのよ、、。自分が死んでしまっても、しなければいけないことなんて、この世にないと思うわ」
「佳世、、」
生は、佳世の濡れた瞳を見つめた。
「自分が死んでも、したいことがあったら、すればいいんじゃないだろうか、、。後悔のないように」
佳世は、濡れた瞳を尖らせ、生を睨んだ。
「あなたは、それで気が済むのかもしれない! でも、あなたのことを大切に思っている人間は、自分自身が死ぬよりも、あなたが死ぬほうが辛いのよ!」
波瑠は、生と佳世の間でオロオロしていた。
でも、佳世さんの言うことはよく分かる。
人を愛するということは、自分の命より、相手が大切な存在になるということだ。
波瑠は、渋谷課長のことを想っていた。
渋谷課長は、波瑠のことを、自分の命より大切だ、と以前テレビに映っているのにも構わず言ってくれた。
すごく嬉しくて、波瑠も同じ気持ちだと思った。
でも、もし、その渋谷課長が、自分より先に死んでしまったら、、。
そう考えると、怖くて、夜も眠れない。
佳世さんは、今、そうなるかもしれない事態に、苦しんでいる、、。
でも、どうしたらいいのか、波瑠には、判断が付かなかった。
生さんにしてみれば、愛する人を悲しませないために、自分の生きたい道を諦めるというのは、人間の生き方として、なんだか腑に落ちないのだろう。
「やっぱり、別れましょう。私たち」
佳世が、涙を拭いて、言った。
「ああ。それが、最善だ」
生も言った。
そんな!
椿総理と圭さんといい、どうして愛し合いながら、結ばれないのだ。
波瑠は、悲しくてならなかった。
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