東城拓巳(トウジョウ タクミ・検事)

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圭が、マンションから帰ったのは、もう、夜も遅かった。 「拓巳、もう遅い。明日は、あの女の裁判だ。朝からだから、泊まっていくといい」 命は、東城にそう提案した。 「命、お前も出る裁判なんだ。お互いに、前の晩に検事と弁護士が一緒にいるなんて、あんまりだろう」 東城と、命は今、裁判で戦っているところだ。 事件は、殺人だった。 結婚二十年目の夫婦の夫の浮気相手が、妻に刺殺された。 しかし、普通と違っていたのは、夫の浮気相手が、男だったことだ。 ゲイであることを隠している命が、その妻の弁護を引き受けることになってしまったのは、偶然だった。 命は、国選弁護人として、その妻の弁護をすることになったのだ。 命は、その妻の言い分を聞いていると、気分が落ち込んだ。 「結婚してから、ずっと、私に隠れて、あの男と付き合ってたのよ! 汚らわしい! 男同士なんて! あたしもいい面汚しだわ!」 人殺しの女はそう言った。 命は、ゲイであることを隠してはいるが、恥じてはいない。 ただ恋愛対象が男であるだけで、人格的には、なんの問題もないと、自分では思っている。 しかし、その人殺しの妻は、命に言い募った。 「弁護士さん、あなたも男なら分かるでしょう? 男同士なんて気持ち悪いわよね。きっと、あたしに殺されなくても、死んでいたわよ。天罰が下るわ!」 命は、弁護士を辞めたくなった。 こんな人間にも、弁護をしなければならないのだ。 人間は、醜い生き物だ。 自分の理解できないことは、否定して、攻撃する。 分かり合おうと、努力さえしない。 今、世界で起きている戦争だって、お互いが、違いを認め合い、理解し合おうとすれば、きっと終わるはずだ。 でも、そんなことは、夢物語なのかもしれない、、。 命は、東城が、マンションに泊まらず、帰っていく後ろ姿を、ベランダから見ながら、そう思った。 この世は、地獄より酷いことがあるのだ。 どうしようもないことが、、。 命は、不意に何もかもが嫌になった。 このまま、ここから飛び降りれば、楽になるのだろうか、、。 命は、地上十六階のベランダの手すりを握った。
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