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命は、病室に運ばれた。
もう、すっかり意識は、はっきりしていた。
波瑠と渋谷課長が付き添っていたが、渋谷課長が波瑠が気になっていたことを、ズバリ、訊いた。
「命兄さん、自分で飛び降りたのか?」
命は、黙っていたが、ポツリと言った。
「誠、、。人生って虚しいよな、、」
波瑠は、渋谷課長が励ますと思っていた。
しかし、渋谷課長は冷静に言った。
「ああ、そうだよ。人生は、虚しいものだ。でも、虚しいからと言って、自分から死ぬのは間違っている。人間が生きるということは、虚しいと分かっていながら生きることだよ。そこに意味があるんだ」
波瑠は、驚いた。
渋谷課長が、そんなふうに思って生きているとは考えもしなかったからだ。
その時、病室のドアが、バンっと音をたてて開いた。
そこには、息を切らせた東城が立っていた。
東城は、命に歩み寄ると、寝ている命をいきなり抱き締めた。
「命! 良かった、、。生きててくれて、、」
「拓巳、、。今頃、あの女の裁判中じゃあ?」
「仕事なんてどうでもいい。私が一番大事なのは、命、、君だと気付いたんだ!」
「拓巳、、」
命の頬に涙が流れた。
「なんだか、ひどく辛かったんだ、、。仕事も人生も何もかも、、」
東城は、その命を見つめて言った。
「命、、。弁護士を辞めないか? 私も検事を辞めようと思っているんだ」
「えっ?」
「鳥取の田舎の父親が、ラッキョウ農家をしているんだが、ずっと継いで欲しかったみたいなんだ。命、、一緒に鳥取へ行って、農業をしないか? 二人で」
ええっ?!
波瑠は、突然の話にびっくりした。
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