87人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、銃弾は発射されなかった。
男は慌てて、猟銃を確認した。
不具合が生じたようだ。
圭は、それを見ると男の元をへ走り、猟銃を掴むと奪い取って、男を取り押さえた。
波瑠はホッとした。
椿総理の暗殺事件は解決したのだ。
しかし、そうはならなかった。
「だらしないわね! 何ヘマしてるのよ!」
そう、女の声がした。
波瑠が、その声の方を見ると、椿総理と同じ年くらいの女が、銃を手に立っていた。
「外川美鈴!」
圭が叫んだ。
外川美鈴といえば、外務省から出向しているという女性秘書官だ。
「美鈴、、すまない」
圭に取り押さえられている男が言った。
男は、外川美鈴の知り合いのようだ。
もしかして、夫だろうか、、。
波瑠は、そう思ったが、よく訳が分からなかった。
しかし、外川美鈴が、銃口を椿総理に向けて叫んだ。
「椿翔子! あんたは、今日死ぬのよ!」
「美鈴、、!」
椿総理が、呆然と言った。
「美鈴、あなたが犯人なの?!」
「ええ、そうよ! 翔子! あなたに総理大臣なんて相応しくない。あたしの方がもっと政治家に向いてるわ!」
椿総理と外川美鈴は、深い知り合いのようだ。
外川美鈴は、続けた。
「翔子、あなたが政治家への道を駆け上がって、総理大臣にまで上り詰めていくのを見るのが、ずっと悔しくてたまらなかった。あたしの方が優秀なのに!」
椿総理は、その外川美鈴を、じっと見つめた。
そして、静かに言った。
「美鈴、、あなたに、この国を幸せにできる覚悟はあるの?」
「ええ、あたしは外務省にトップの成績で入ったし、誰よりも優秀なのよ!」
「美鈴、総理大臣に求められているのは、優秀さじゃない。国民を幸せにしたいという覚悟よ」
そう言うと、椿総理は上半身の服を脱ぎ出した。
「椿総理?! 何してるんですか?!」
圭が驚いて叫んだ。
構わず、椿総理は下着姿になった。
波瑠はびっくりしたが、もっと驚いたのは、椿総理の上半身が火傷のケロイドの跡で覆われていたからだ。
以前、お腹の火傷の跡は見せてもらったことがあった。
しかし、全身にあったのだ。
それを見た、圭も外川美鈴も息を呑んだ。
「美鈴、、私は病気で苦しんだ母親に焼き殺されるところだった、、。とても辛かった、、。でも、この運命は変えられない。ならば、この経験を活かしたいと思った。私のように苦しんでいる人を、一人でも助けたい、、。もし、一人でも助けられるならば、私は再び業火に焼かれてもいい、、。そう思って総理大臣の仕事をしているわ。あなたに、この覚悟はあるの?!」
外川美鈴の表情が変わった。
落胆し、落ち込んだ。
「翔子、、やっぱり、あなたには勝てない、、」
外川美鈴は、持っていた銃を捨てた。
最初のコメントを投稿しよう!