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義父の渋谷貴一郎の入院先は、救急搬送された総合病院だった。
貴一郎は、渋谷医院に隣接した自宅で一人暮らしをしていた。
週に三回ほど、お手伝いさんが来て、食事の支度などをしていたのだった。
貴一郎が倒れているのを、そのお手伝いさんが発見し、救急車を呼んだのだ。
丁度、そのお手伝いさんが来る日で、発見が早かったことが幸いし、一命は取り留めた。
だが、、。
「えっ? 意識が戻らないし、病名がわからない?」
渋谷課長が、長兄の生(セイ)に訊いた。
生は、四人のうちの一番早くに、病院へ駆けつけ、主治医ともう話をして病状を聞いていた。
波瑠と渋谷課長が、病院へ駆けつけたのは、生からの電話だったのだ。
「ああ、僕もじっくり主治医とは話してみたんだが、どうも原因不明の昏睡状態らしい、、」
「原因不明だって?!」
その叫び声と共に、病室のドアが、バンっと開いた。
次男の命(メイ)が、病室に飛び込んで来たのだった。
命は、スーツにロングコート姿だった。
「法廷から直接来たんだ、、。親父、もう死ぬのか?」
「命、久しぶりだな。相変わらず、お前は遠慮がないね」
生が苦笑した。
「お父さんは、まだ死なないと思うよ」
それを聞いて、渋谷課長と波瑠はホッとした。
その渋谷課長が、生に訊いた。
「圭(ケイ)兄さんは、まだ来れないの?」
「ああ、圭の仕事は特殊だから、親の死に目にも会えないってやつだね。でも、圭は、一番父親っ子だったから、どうにか都合をつけて来るだろうね」
その言葉通り、暫くすると、三男の圭が、トレンチコート姿で青白い顔をして、病室に入って来た。
「父は、大丈夫なのか? また、元気になるんだろう?」
「圭、仕事は大丈夫なのかい? 今は椿総理大臣の護衛なんだろう?」
生が訊いた。
波瑠は、圭が総理大臣付きのSPだとは訊いていたが、さすがに、その名前を直に聞くと緊張した。
椿 翔子総理大臣は、日本で初の女性総理大臣だった。
しかも、史上最年少の42歳で、美人であることでも有名だ。
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