約三分間の

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「二週間が過ぎました。今日は喧嘩になりましたね」  いつもと違って少し暗い話題から始まる。 「これは録音をしないと気が済まない! そう思ったからまたメッセージを残します」  まだ怒っているんだろうか、それにしてはちょっと雰囲気が違う。だって彼女はいつものように笑顔のわかる話し方だから。 「君はずるい。ひどい人だ。喧嘩をしたってのに、あんなに直ぐあやまるなんて。あたしだってちょっと意固地になっていただけなのに!」  今も怒っている彼女だけど、それは喧嘩に対しての怒りではない。なんなら怒ってはないんだろう。本当に甘ったるいな。 「だけど、あのあやまりかたには参ったよ。なーにが、好きだから、喧嘩を続けたくない、だ! そう言えば許されると思うなよ! って強がりだけは言うよ。だってそんな風に言われたら仲直りするしかないじゃない」  笑っている彼女。前は彼女のほうが惚れてるんだと思ったけど、そうだけじゃないみたい。十分に彼女は愛されている。 「こんな喧嘩だったら時々は良いのかも。友達に喧嘩した文句を話したら、あたしたちは全然喧嘩しないほうなんだって。それは気が合うみたいで素直に嬉しいです。それでも時々は喧嘩してまた仲直りしようね」  そう言うと彼女は停止ボタンを押され、焦った様にもう一度録音を再開された。 「忘れてた。あたしは喧嘩しても、君のこと、好きだよ」  最後に必ず言うようにしようと思った言葉を完全に忘れてたらしい。かなりの困ったさんだ。  そしてまたあの間がある。これは慣れることなんて無いのかもしれない。  とはいえ彼女たちは本当に信頼して恋人付き合いを続けているみたいだ。こんな二人ならずっとその仲は続くのかもしれない。これからも気にはなるが。 「およそもう付き合って半年が過ぎましたね。あたしたちは三年生になりました。それと一緒に悪いことも起きてしまった」  これまでのはしゃぎかた、特に前回から比べたらかなり彼女は暗い。 「君も知ってることだけど調理実習で指をちょっと切った」  おっちょこちょいな彼女なら十分にあり得ることなんだろう。 「それだけなのに、あんなに血が止まらないなんて。保健の先生が驚くほど焦ってたよ。それからの病院」  楽しそうに話は工夫しているのにその声に、面白そうにする元気がない。 「多分、あたしは悪い病気なんだ。なので、君に別れを告げようと思います。病気のことは理由にしないつもり。お願い。なんにも言わないで言うことを聞いて」  今にも泣きそうな声。彼女の表情を見てもいつもの笑顔がない。 「こうなったからもうこのメッセージは君に聞かれることはないだろうな。だから、言うね。キライになんてなってないよ。そんなことが有るわけないじゃない。あたしと君は運命の人なんだから」  もう彼女は泣いていた。 「別れたくなんてないよ。でも、病気の彼女なんて君に相応しくない。もしかしたら死んじゃうかもしれないんだから。あたしは君にそんな恋人が居るのは許せないんだ。じゃあ、さようなら。好きという言葉を残してさよなら」  三分間なんて考えてないんだろう。だけど聞いている人なら今回が一番長かった気がするんだろう。そして次が気になる。  続きはあるんだろうか。今の彼女を聞いているとそんな雰囲気はない。これでおしまいなのか。テープにまだ残りはあるのに。  海沿いの街を歩く寂しそうな背中が目に浮かぶ。 「昨日の録音から続きます。別れ話を全く聞いてくれなかったけどそれは嬉しいんだよ」  続きはあったしそれは直ぐで翌日だったけどまだ暗い。 「あたしが病気だったとしても君が支えてくれるって話してくれたこと、ホントーに、本当に嬉しかった、。ありがとう。こんな人があたしなんかの彼氏なんて、あたしはとんだ幸せ者だ」  もう彼女の恋人を良く言うのには慣れた。それどころか応援したくもなってる。 「それでもね。そんな人だから病気の恋人なんて足枷になりたくないよ。さっきは納得したみたいに返事したけど、病院で受けた検査で悪い病気だとわかったら、別れようね。これは相談してるんじゃないよ。あたしからの別れ話。ごめんなさい」  なんかこんな話を聞いているとつい応援したくなって、今の彼女がとても可哀相。病気じゃないことを祈ってしまう。 「じゃあ、あたしの大好きな君へ。多分次の録音は病気がわかってるだろうから、どうなってるんだろうね。この幸せが続いてれば良いな」  今回の音声が終わって涙を流しそうなのは彼女じゃない。こっちのほうだ。  聞いていると痛くて切ない。これがフィクションだったらな。でも、真実のような気がする。  続きを聞くのが怖い気もしていた。
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