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「ちょっとまて! どうなったの! おしえなさいよ! 壊れたの?」
一度再生を停止させてテープを確認すると、問題はない様子。首を傾げて、年代的にカセットテープの扱い方なんて知らないので困ってしまった。
そうしているとかくれて聞いていた部屋のドアを開け「なんを騒がしくしてるの?」とお母さんが心配そうな顔をしている。
これは緊急事態だ。サッとカセットテープをかくした。でも間に合わない。
お母さんは私の手元に注目して「ちょいちょいちょい!」と近付くと、そのカセットテープを取り上げた。
「これ、聞いたの? どこで見つけた? どこまで聞いた? 答えんか!」
かなりの怒りの様子なので太刀打ちできないと思った私はしゅんと小さくなる。
「お父さんの引き出しから見つけた。普通に音楽がはいってるのかなと思ったけど、違った」
その言葉を聞いてさっきまで怒っていたお母さんは「全くもう」と言うけど、ちょっと顔が綻んでいる。その理由はわからない。
その様子が安全そうなので「このテープってなんなの?」と恐る恐る聞いてみる。
「子供は知らなくて良い。なんて話しても納得できないよね」
少し呆れた様子のお母さんはため息を吐いて私を見ている。
「お父さんの昔の彼女だよね? 死んじゃったの?」
これが私の予想だった。だけど、こう思うのが普通だろう。
だけど、この言葉を聞いたお母さんは笑った。
とても楽しそうに。
「違うよ。それにこの子は病気を治して元気になりました」
キョトンとしてしまう。なぜお母さんがそこまで詳しいのか。怒らないのか。なんで笑ったのか。
そしてお父さんはこんなに熱愛だったのに、別れてしまったのか。そうだと人格を疑う。
本当に疑問。そんな表情をしていたんだろう。
「わからないの? このテープの声の主」
「うん。だから聞いてる」
「若かったからねー」
全く意味不明なことをお母さんが聞くけど、そのお母さんは笑顔。
「これはね。あたしの昔の声だよ」
衝撃の言葉だ。
「えー! お母さんって病気とかしたことがあったの!」
現在では病気知らずな母なので想像もしてなかった答えに驚く。
「うん。驚きだね。それまでも病気知らずだったのに、白血病になって、ドナーが見つかって治ったら、また病気知らず。だけど、今でも検診受けてるの知ってるでしょ?」
そう言えばそうなんだ。お母さんは昔から病気もしてないのに、病院に通ってる。それが普通ではないのを知ったのは最近のこと。
「うわー。まじか。お母さんなの? イメージが壊れる」
残念そうに私が語っていると「どういう意味?」とお母さんが睨んでいる。そのくらいにテープの彼女とお母さんは似合わない。
だけど、よくよく考えたらテンションの高いところは似ているのかもしれない。
なんとなく納得できて、こうなるとテープの続きが気になった。
「それで、これからどうなったの?」
「テープが残り少なくなったから新しいのにしたんだよ。まだあったでしょ? まあそれからは病気が治ってハッピーなことばかりだけど」
「ないよ。それに、続きみたいな音があった」
お父さんの引き出しにはこのカセットテープしかなかった。お母さんによればそれからもずっと続けたらしいからもっとある筈。
そしてさっきのテープの雑音は録音の前にマイクを調整していた音のような気がしていた。
すると、お母さんも疑問の表情を浮かべて「聞いてみようか」と言うのでまた再生を始める。
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